豊島逸夫の手帖

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円相場100円割れの誘因となるか4要因の共振

2014年3月17日


経常収支赤字状態化という構造的円安要因は変わらない。米国は量的緩和からの出口を模索、日本は量的緩和サイクルの初期から中期へ進行中という対比も見ても中期的ドル高・円安構造は明白だ。


それでも、マーケットが円高に振れることもある。今週は、まさに、その時期。100円割れも視野に入る。その理由は、


1)ウクライナ危機の地政学的リスク
クリミアの住民投票によるロシア編入は既に織り込み済だ。黒マスクに銃を持ちロシア語を話す多数の人間が目撃され、現地テレビ局もロシア系テレビ放送に切 り換わり、少数派のタタール系住民は投票をボイコットする状況での選挙結果にサプライズはない。市場の次の関心は、東部ウクライナの主要都市ドネツィクに おける親ロシア系の動きに移っている。炭鉱を中心とする経済力の強い地域に位置し、ロシア経済とのつながりも強く、住民もロシア系とウクライナ系が真っ二 つに分かれる都市だ。ここで、既にロシア系住民が検察庁の建物に乱入するなどの事件が起こりつつある。クリミア同様の住民投票を要求する声も出ている。
プーチンは、ドネツィク編入も視野に入れているのか。
大統領支持率はソチ・オリンピック前に50%以下であったが、直近では70%を超えている。ロシア選挙調査機関の発表による数字ではあるが、クリミア問題 はロシア国内の「大国復帰願望」に火をつけたことは間違いあるまい。シニア層を中心に旧ソ連時代へのノスタルジアは強く残る。


そこで、プーチンの「本気度」を示す数字として欧米市場で注目されているのが、3月13日に発表されたFRBの統計だ。「外国・国際機関のカストディアンとして預託する米国債」の数字が急減している。
3月12日現在として3兆2737億ドルが計上され、3月5日時点から475億ドル減少しているのだ。この変化が、海外資産凍結を見越したロシアによる移管の結果ではないか、との憶測を誘っている。
クリミア住民投票はウクライナ危機の未だ初期段階とする見方が広まり、相対的に安全とされる円、ドル、金へのマネー流入現象が加速中だ。


2)FOMCによる緩和継続の可能性
今週のイベントの目玉はなんといっても18-19日に開催されるFOMC。 バーナンキ前FRB議長のハト派路線を継承すると見られるイエレン新議長と、 タカ派両巨匠(今年投票権を持つフィラデルフィア連銀プロッサー総裁とダラス連銀のフィッシャー総裁)との対決の構図が注目されていた。その渦中で俄かに 頭角を現してきたのが、フィッシャーFRB副議長である。バーナンキ前FRB議長やドラギECB総裁は同氏の「教え子」という大物副議長だ。先週の議会で の指名公聴会で「現在の失業率6.7%は高すぎる。インフレ率はFRBの目標とする2%を下回る。量的緩和縮小中だが、FRBは基本的に緩和姿勢を継続す べき。」との意見を述べたことに市場は反応した。イエレン議長にとって心強い支援発言だからだ。
2月の雇用統計の新規雇用者数は事前予想を上回る17万5千人であったが、経済成長維持に必要とされる20万人にまでは戻り切れていない。大寒波で雪の下に埋もれた米国経済の実態が、春の訪れとともに露わになろう。
このような状況下で、FOMC声明発表後のイエレン議長初となる記者会見での発言次第では、緩和継続のトーンが更に強まり、ドル安・円高に拍車をかける可能性がある。


3)チャイナ・リスク
新指導部は、理財商品や社債の「秩序あるデフォルト」をいかにして実現するのか。デフォルトによる信用収縮のリスクと、経済成長維持のための資金供給継続の同時達成という綱渡りを引き続き強いられる。中国発リスクオフの根は深い。


4)ECB(欧州中央銀行)の金融政策
ECB理事会では利下げを見送ったが、先週、ドラギ総裁は、フォワード・ガイダンス(金融政策の指針を明示すること)によるユーロ金利下落の可能性に言及 した。ディスインフレ基調下のユーロ高リスクを懸念していた市場に、「ユーロ安誘導」ともとれる同発言は効いた。ユーロは急落。円の対ユーロ・レートも円 高に転じた。


膠着状態が続いたドル円相場だが、以上の4要因が共振すると、いよいよ円高方向へのブレークしそうだ。
但し、構造的円安要因が99円水準で円高進行を食い止めるだろう。

1584_1.jpg丸善本店入口


1584_2.jpg週末の雪山はピーカン


それから今週号日経ヴェリタスのコラム 逸's OK!
「財務省、日銀OBの円離れ」

2014年