豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. ECB緩和と雇用統計に揺れる市場
Page1629

ECB緩和と雇用統計に揺れる市場

2014年6月5日

今日のECB理事会、明日の米雇用統計とマーケットは今週のヤマ場を迎える。

ECBのドラギ総裁は先月の記者会見で「来月は動く」と明言しているので、追加緩和に踏み切る可能性が市場内では確実視されている。投機筋によりユーロは「ECB追加緩和」の噂で売られ、ニュースで買い戻される可能性もある。

ただ、昨年9月のFOMCで、「緩和縮小決定」が確実視されていたが、当時のバーナンキFRB議長は、決定を見送ったという「ちゃぶ台返し」の記憶も市場内には未だに残る。「中央銀行には逆らうな」との警戒論も根強い。

特にユーロは短期的に思わぬ動きを見せるのでトレーダー泣かせの通貨だ。

ここで重要なことは、短期的思惑ではなく、中期的な日米欧の通貨安競争の様相だ。

今日のECB理事会で予想されている金融緩和政策は以下の三つの選択肢の中から、一つあるいは二つの合わせ技である。

1) 主要政策金利であるリファイナンス金利の引き下げ
2) 民間銀行がECBに預ける「超過準備」に対する金利をマイナスに引き下げ(ECBは銀行からの預金の手数料を徴収することになり、銀行に対してECBに預金している資金を貸出に廻すように誘導する政策である。)
3) 新たなLTRO導入(独シュピーゲル誌は、期間4年の新種LTROの可能性を報じている。LTROとは、ECBへ資産担保証券などの担保を差し入れ、民間銀行が資金供給を受ける制度である。これまでは3年物LTROが実施され、銀行の流動性危機が回避に効果があった。この3年物は、民間銀行からの既に返済が進んでいる。今回仮に導入されれば、その目的は危機回避ではなく、景気下支えとなる。)


更に、ECBによる日米型の量的緩和政策も排除できない選択肢だ。特にこれまで強硬に反対論を唱えていたドイツが、「やむなし」の容認に転換しつつある。ドイツはワイマール時代のハイパーインフレを体験しているので、量的緩和の副作用であるインフレに対して、特に敏感であった。しかし、いまやユーロ高懸念が優りつつあるようだ。但し、市場は、今回、ECBが量的緩和にまで踏み込むとは読んでいない。ここに潜在的サプライズ要因が残る。

いずれにせよ、ECBがユーロ安を狙った追加緩和を決定すれば、外為市場はドル・ユーロ・円の「弱さ比べ」となりそうだ。

米ドルは足元では高めに推移しているものの、FRBのイエレン議長は、仮に明日の米雇用統計が良くても、住宅問題を懸念して当面緩和継続の構えだ。米国10年債利回りも依然2.5%-2.6%の低水準にある。緩和によるインフレ懸念は薄い。インフレヘッジとされる金の価格は1240ドル台前半まで下落して、デッド・クロス(50日移動平均線が200日移動平均線を下抜ける現象)になっている。しばらくは下値模索になりそう。長期的には買い場探しである。(プラチナ価格も200日移動平均線を下抜けた。)

対して、主要三通貨売りの反対取引として、新興国通貨など「その他諸国」の通貨は買われやすくなる地合いだ。そこでは、中国人民銀行の人民元管理政策の動きが注目される。

2014年