豊島逸夫の手帖

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FOMCを読む勘所

2014年6月18日

FOMCの注目点は、バーナンキ時代の「量的緩和縮小時期」から、イエレン時代には「利上げ時期」に移行している。

そこで、FRBがFOMC声明と同時に発表する「経済予測」の中の「FOMC参加者の米政策金利予測」が、もっとも分かりやすいデータとしてもっぱら材料視される。

FOMC参加者のアンケート調査結果のようなもので、「2014年末、2015年末、2016年末、そして、それ以降、のフェデラルファンド(FF)レートが何%になると予想するか」をズバリ聞いて、表にまとめている。将来の金利予測の分布をドット(点)で示すので、ドット・チャート(あるいはドット・プロット)と呼ばれる。

2014年3月時点でのドット分布は以下のようになっていた。

FOMC参加者の米政策金利予測

2014年末

2015年末

0.25%

15個

2個

0.5%

2個

0.75%

2個

1%

1個

5個

1.25%

1個

1.5%

1個

2%

1個

2.25%

1個

3%

1個


2016年末になると1%から4%のレンジで細長く分布し、「それ以降」になるとほぼ4%に収れんしている。

この前回のドット・チャートは、前々回より予測金利水準が高めになっていたので、市場は「すわ、利上げ時期近し」と色めきたった。

しかし、FOMCは「釘刺しコメント」を声明文に盛り込んでいた。「この予測値はFOMCの金利政策を表現したものではない」と明記されていたのだ。後日発表された「FOMC議事録要旨」にも、「この数字を発表すると、市場は「利上げが予想より早まる」と誤解するのではないか」との懸念が数人の参加者から指摘されていたことが記録に残っている。

それならば、敢えてこのような「アンケート調査結果」を発表せずともよかろう、とも思えるのだが、今回から取りやめれば、それはそれで、さまざまな憶測を呼ぶだろう。

筆者は、総体的な予測金利水準の振れより、予測値分布のばらつきに注目している。今回はスタンレー・フィッシャーという経済界では大物の副議長をはじめ、FOMC参加者が3名増える。フィッシャー副議長は、ハト派でイエレン議長との相性も良いとされるが、いっぽうでタカ派勢力も存在感を強めている。参加者たちの最近の発言をフォローしていても「雇用統計も改善傾向が顕著。早ければ年末、あるいは来年年初にも利上げ転換考慮すべし」とのタカ派コメントから、「2015年以降も金利は上がらず、低金利状態が長期継続されよう」とのハト派コメントまで、大きく割れている。バーナンキ前議長は、自由な身分になったので、「私の生涯で、FFレートが従来の長期的均衡値とされる4%に戻ることはなかろう」とまで語ったと伝えられている。

このハト派とタカ派の意見の相違こそ、市場が「FRB内の亀裂」として懸念するところだ。

最近の市場の推移を見ても、ドル長期金利が2.6%台(10年債利回り)で低迷。市場の大勢も「低金利が続く」と読んでいた。

ところが、今回のFOMC一日目の昨日に発表された5月の米消費者物価指数は前月比0.4%増という予想外の上昇を見せたことで、市場には俄かにざわつき始めている。特に食品・エネルギーを除くコア指数が0.3%増と2011年8月以来の上昇幅をみせたこと。更に、FRBはPCEというインフレ指数の2%を目標値としているので、別の物価上昇指数とはいえ、年率で2%を超えてきたことは注目に値する。タカ派にしてみれば、我が意を得たり、ともいうべき数字である。

FOMC後のイエレンFRB議長の記者会見で、この点についての質問が出ることは必至。FOMC内部のまとめ役としてのスキル、そして市場へのコミュニケーション能力が問われることになろう。

2014年