豊島逸夫の手帖

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日銀が株を買う日

2014年6月23日

世界的に中央銀行と株式市場の距離が縮まっている。

従来、金融当局である中央銀行が株価について言及することは「管轄外」のことであり、株価に直接的影響を与えるような中央銀行のコメントは「禁じ手」とされてきた。

しかし、18日のFOMC後の記者会見で、イエレン議長は、史上最高値水準にある米株価について「歴史的なバリュエーションの標準から乖離しているとは思えない」と「米株バブル論」を否定するかのごとき発言をした。このコメントが高値警戒感により慎重な姿勢を見せていた株式投資家たちに安心感を与えたことは間違いなかろう。

いっぽう、今、欧米メディアで紹介され注目されているレポートがある。「グローバル・パブリック・インベスター=世界の公的投資家」と題するサーベイである。「世界の中央銀行が株式市場のメジャーなプレイヤーになりつつある」という内容で、OMFIFという中央銀行関連の調査・アドバイザリー機関が発表した。

その中で「最近の数年で世界の公的投資家たちは上場株式投資を少なくても1兆ドル増やしている」と推測している。

実例としては、中国人民銀行、スイス国立銀行、デンマーク中央銀行のケースを挙げている。「我々は先進国株式に投資している」とのスイス国立銀行会長のコメントも紹介されている。

中央銀行が保有する公的準備の運用は債券が主体であるが、低金利により利息収入が減少したことが、この現象の背景にあると説明している。

このような状況下で、ECBはマイナス金利という「奇手」を含む追加緩和策を打ち出した。更に、ドラギ総裁は「これでまだ終わりではない」と語り「債券担保証券購入による量的緩和策導入の検討」を示唆している。

そして、米国側では18日のFOMC後の記者会見で、イエレン議長が、足元で消費者物価指数が予想外の上昇を見せたことについて「ノイズ=雑音」と一蹴した。「物価上昇のペースが金利上昇のペースを上回るオーバーシュートが、金融正常化の過程では起こり得ること」とも語り、ハト派色の強い発言を繰り返した。その結果、市場では、「低金利継続」との見方が強まった。

かくして欧米両中銀のトップが、相次いで、緩和色の強い発言を続ける中では、日銀の「沈黙」が相対的に目立ち始めている。

外為市場でも「緩和負け」した円が買われるという「緩和競争」が展開されている。日銀の追加緩和出遅れ感が欧米市場では明らかに意識され始めているのだ。

欧米間では、ECB追加緩和発表後、ユーロ安・ドル高に動いたが、FOMC後は、ユーロ高・ドル安に転じている。まさに抜きつ抜かれつの通貨競争デッドヒートである。

以上のグローバルな市場の流れを勘案すると、そろそろ日銀による株式ETF購入という「奇手」についての環境も熟しつつあると筆者は感じる。「7月電撃追加緩和、株ETF買い増し」ともなればインパクトは強いであろう。

おりしもアベノミクスの成長戦略に関しては、ここにきて欧米メディアの厳しい論調が目立つ。「3本の矢ならぬ、1000本の針だ」などと揶揄されている。

ここは、やはり、奇策といわれようと、金融政策による「時間稼ぎ」が必要ではないか。

中央銀行のデュアル・マンデート、即ち「成長と物価安定」の二つの政策目標の中で、日銀は明確に「デフレ脱却のための成長重視」というワントップ戦略を前面に打ち出してきた。

ゲーム後半、アディショナル・タイムに近づきつつあるとき、最後のメンバー交代ともいうべき、監督の決断が求められている。

なお、日銀は外貨準備の多くを米国債で保有しているので、金保有も増やすべきであろう。

なお、今朝の日経朝刊 「熱撮アジアBIZ」に、インドの文化的金選好度について「踊る婚礼産業」と題して、全面写真で出ていますよ。

2014年