豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 金曜の乱に身構える市場
Page1647

金曜の乱に身構える市場

2014年7月3日

日本時間3日午後9時半に、米国では雇用統計が発表され、欧州ではECB理事会後、ドラギ総裁が記者会見する。そして4日は米国市場が独立記念日で休場。商いが薄くなるので、アジア・欧州市場の時間帯では値が飛びやすい地合いとなる。

市場が特に神経質になっているのは、現在進行中の世界的株高が、FRB・ECBの緩和バイアスにより支えられているからだ。そこで、イエレンFRB議長のハト派スタンスが雇用統計で揺らぐことはないか、ドラギECB(欧州中央銀行)総裁の追加緩和の次の一手はあるのか、という点について、なにか手がかりを求めている。

雇用統計に関しては、非農業部門新規雇用者数(NFP)が20万人程度の水準まで増加傾向が続いても、イエレンFRB議長は、好感する市場に釘を刺してきた。不本意なパートタイマー数、賃金の伸び率、長期失業者などに改善傾向が確認できなければ、雇用に楽観的な見方を示さない姿勢だ。粛々と量的緩和縮小を進めつつも、引き締めへの転換=利上げへの道は遠いだろう。まだ量的緩和は終わっていないのだ。そこで、市場は当面「歴史的低金利継続」と受けとめ、キャリートレードで、貪欲に様々な資産クラスを買い漁る。今年中には量的緩和終了と分かっていても、まだ「執行猶予」期間中だ。HFT(高頻度取引)が市場を支配する現状では、売買回転も速い。1ヶ月あれば、値幅取り目的の短期売買を何回でも繰り返すことができる。だからこそ、南欧国債からルーブル、ハイイールド債、貴金属のプラチナ・パラジウムに至るまでファンドの「つまみ食い」の対象が拡大してきた。足元では、中国経済指標好転を囃して、中国と関連の深い銅や豪ドルが買われている。しかし、中国国内では、不動産市場低迷傾向が強まり、不安感が強まっている。とても腰のすわった「中国買い」とは思えない。結局、マネーが大移動しているわけではなく、コアなマネーの受け皿があるわけでもない。

それでも、市場には頼もしい「心の支え」がある。

前回のFOMC後の記者会見で、イエレン氏は「現在の株価は歴史的な水準から乖離していない」とNY株バブル説を否定するかのような異例の発言を行ったからだ。これが、「おすみつき」になって、高値更新を続けるNY株式市場に一定の安堵感を醸成されたことは間違いなかろう。

なお、NFPが事前予測に比し悪化すれば、なおのこと、利上げ観測は遠のき、市場のリスクに対する警戒感は鈍化しよう。

雇用統計がどっちに転んでも、市場は楽観的に受け止めることが、実は、今の市場の最大のリスクとも思える。

次に、ドラギECB(欧州中央銀行)総裁の記者会見の注目点は、なんといっても、「量的緩和」検討の進捗状況だ。前回の記者会見でマイナス金利を含む追加緩和策について「これで終わりではない」「資産担保証券購入のカタチでの量的緩和を検討中」と明言した。しかし、市場は、そもそもABS(資産担保証券)市場の流動性が小さいので、その実現性に懐疑的だ。欧州の民間銀行が、ローンをまとめて証券化(ABS組成)して資金調達する必要性が感じられない。その気になれば、民間銀行がECBから直接、流動性供給を受ける窓口が開かれているからだ。

とはいえ、市場の短期投機筋には、「なんでもやる」「まだ終わっていない」というドラギ発言が心地良く響き、3日の記者会見でも、次の一言を期待する。ドラギ・マジックと揶揄されようと、ECB総裁発言は重い。仮に、なにも言及がなければ、期待の反動で失望感も強くなる。

総じて、FRB・ECBそして日銀の三極同時緩和は、株・債券・商品のトリプル高を誘発した。

しかし、中央銀行主導の相場は、市場の景色が一夜にして変わる危うさをも秘めている。

さて、プラチナの上げが加速。セミナーなどでも、プラチナ・パラジウムの価格予測聞かれます。今年のジェフ・ムック(日経マネー)の中のプロ3人対談(亀井・池水と)で、まだパラジウムは話題になっていなかったけれど、プラチナのレンジは3人が語っています。

(83ページ)。亀井1250-1550ドル、池水1300-1500ドル、豊島「今の水準が下値」(この時点で1400ドル超えていた)、高値は1700ドル。さて、1500ドル突破したところで、どうなるか。私の見方は変わっていません。

来週の月曜日にはGFMSセミナーで、トムソンロイターGFMSのアナリストとパネルディスカッション。これは、もっぱら業界向けのセミナーだから、ロンドンFIXの話題などが出そう。昨年は私も含めて英語でやって、同時通訳が入ったのだけど、これが、日本語ではさっぱり伝わっておらず、今回は、基本的に日本語で、外人には英語で同時通訳となりました。

昨年のGFMSセミナーでは私はプラチナ1700ドル予測で、やはり最も強気でした。今年のGFMSのプラチナ価格予測は下値1290ドル、上値1700ドル。レンジが広くてずるい(笑)。

金価格は、ほぼ皆、下値1100-1200、上値1400-1500に収斂しています。金については、私は比較的弱気なほうでしょう。「2014年は金よりプラチナが面白い」と言ってきましたし。

また、月曜のGFMSセミナーについては、その模様を報告します。

なお、ドル円は101円70銭まで戻しているけれど、短期的には未だ円高テリトリー。

2014年