豊島逸夫の手帖

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イエレン対クロダ、同日発言を比較する

2014年7月16日

15日には日本時間午後3時半すぎから日銀黒田総裁の金融政策決定会合後の記者会見。同11時すぎからは、イエレンFRB議長の、米議会上院銀行委員会での定例証言。日米中央銀行トップのコミュニケーション・スキルが比較される一日となった。

この両者の発言を比較すると、まさに日米経済の現状の違いが浮き彫りになる。

まず、黒田総裁への質問は、粛々と継続する量的緩和政策に関して、特に物価への影響についての質問が目立った。

対して、イエレン議長への議員からの質問は、量的緩和政策からの「出口戦略」と、金融システム安定化の問題に集中した。

「入口」から中に入りつつある日銀と、「出口」を模索するFRBの立場の違いが鮮明だ。

マクロ経済については、4月消費増税後の落ち込み・反動を「想定内」とする日銀と、雇用統計好転でも利上げには慎重なFRBの姿勢が対照的だ。

市場の注目点は、日銀が「追加緩和」あるか。FRBは、量的緩和終了(10月)後、いつ引き締め=利上げへ転換するか。

黒田総裁は、「物価が1%台を割る可能性があるとは思わない」とかなり強い断定的とも思えるほどの口調で語り、追加緩和観測を抑え込むかのような印象を与えた。ちなみに、「円高」もかなり強い表現で、可能性を否定している。自信を示すことで、市場の期待感に訴える戦略のようだ。

しかし、民間エコノミストたちとの見解は、物価2%達成は困難。市場では当面円高に振れるとの見方が増えている。

いっぽう、イエレン議長は、大寒波による経済成長減速は一時的として、米国景気は回復軌道とにあるとしながらも、雇用・住宅・賃金の面に不安定要因をかかえて「完全ではない」と釘を刺す。

雇用は労働参加率などの質的問題をかかえる。不動産市場には失望している。賃金の伸びは鈍い、などの発言を繰り返してきた。これらの問題の持続的改善が確認できれば、利上げ早期決定もありうるが、好転の兆しが見られなければ、(更に、見られても当分は)緩和継続との姿勢は変わらない。「利上げ決定に公式はない」と語る。

それでも、市場では、「雇用が改善しつつある傾向は明白ゆえ、利上げ前倒しの可能性を示唆した発言ではないか」との観測も徐々に増えてきた。

なお、量的緩和終了10月のスケジュールが変わることがないのか、との質問には「それには大きなサプライズ必要」と述べた。そのサプライズとは「FRBが労働市場改善に対する自信を失ったとき。あるいは、インフレ率が2%に届かないケース」を挙げ、そうなると「考え直さねばならない」と語った。

「これで量的緩和政策は完全に打ち止めか」との質問には「未来永劫ないとはいえない」と含みを残している。

その他、注目される議員とのやりとりを列挙しておく。

財政政策について聞かれたときには、「議会の決定次第」と断ったうえで、「タイトな財政が成長の足かせとなってきたので、異常な低金利政策を採らざるを得なかった」と、これまでよりやや踏み込んだコメントで返した。

「FRBの経済成長率見通しは、金融政策決定にあたり重要な判断材料だが、その経済成長率見通しが楽観的に過ぎるという判断の誤りがあった。これにより、引き締め導入が早すぎる結果にならないか。」との意地悪な質問に対しては、「経済予測は難しい。しかし、我々は、雇用とインフレ率の予測では善戦している。」とやや苦しい反論があった。

銀行の健全性、金融システミック・リスクについての質問も多かった。

「こんにち、JPモルガンの資産規模は2.5兆ドルに達する、これはリーマンの4倍だ。そのリーマンの子会社数は209社だったが、JPモルガンは、なんとその15倍の3391社を有する。一瞬信じがたい数字だった。リーマンでの体験に照らして、あなたは、JPモルガンに同様の決定をしなければならないときには、正直に迅速かつ秩序ある方法で対処できるか。それも国民の税金による救済抜きで。」とたたみかけるような質問もあった。それに対する答えは「秩序ある解決を阻む障害を指摘して工程表を作成し、障害克服の機会を与える」というもので議員は納得せずの表情であった。

バブルに関しては、ややホットな論戦も見られた。

「FRBのスタンスは、バブルが起こってから対処するとの姿勢だ。低金利政策がイールドの追求を産みバブルを引き起こす。」との議員の指摘に対しては、「全てのバブルを事前に察知できないが、金融制度強化がバブル発生の確率を減じる。イールド追求に関しては、常に状況を注視している。特に、低格付け会社の社債などには懸念している。」と述べた。

また、今回もFRB議長としては異例の株式市場に対する具体的見解を披歴した。「今回も」と書いたのは、前回のFOMC後の記者会見で「現在の米株価は歴史的水準から乖離していない」とバブル説を否定し、現状の株価を容認するかのごとき発言をしたからだ。

今回は、「バリュエーションがかなり割高と思えるのは、ソーシャル・メディア系の小型株やバイオ関連株だ」とまで具体的に指摘した。その発言が伝わると、それらの株式が売られる局面もあった。市場内では「FRB議長が株価予測のようなコメントをしてよいものか」との不満げな反応も見られた。

総じて、黒田総裁の「自信」とイエレン議長の「多岐に亘る発言」が印象に残った。

さて、金価格はやっと1300ドル割れ。1290ドル台に。

昨日のイエレン議会証言でも、利上げ視野の雰囲気を感じとったようだね。

それにしても、イエレンさん(67歳)は、小柄な女性だけど、凄いパワーを感じます。大男の上院議員8名くらいに囲まれ、被告席みたいなところに座らされ、次から次へ、2時間も難しい質問に丁寧に答えてゆく。国会議員には経済に疎い人たちも多いから、アホな質問も出るのだけど、忍耐強く説明している。偉い!彼女の英語はブルックリン訛り。ガイドをゴイドみたいな発音します。67歳で、あれだけ頭脳明晰なことに脱帽!

2014年