豊島逸夫の手帖

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株も金も同時急落

2014年8月1日

31日、米国株式市場のムード(英語でセンチメント)が急激に悪化したが、債券市場は冷静であった。

10年債利回りは寄り付きで瞬間的に2.61%をつけるまで急騰したが、その後、株価急落とともに、2.56%台まで下げたのだ。株式市場では、FRB利上げ前倒し懸念が再燃しているが、債券市場では、イエレンFRB議長の超ハト派スタンスへの信頼が揺らいでいないようだ。

債券市場は30日発表のFOMC声明文で指摘された「労働資源の強い余剰」により、緩和政策継続と読む。株式市場は、同じ声明文中に、タカ派の巨匠プロッサー・フィラデルフィア連銀総裁の「利上げ急ぐべし」との異論が併記されたことを重視する。

このように解釈が真っ二つに割れるとき、投資家心理の不安感が高まるものだ。

市場の恐怖心理を示すVIX指数も、最近は過去最低水準の10台まで下げていたが、31日には前日の13台から一時は17台を突破して、30%近い急騰を演じた。

たしかに不安心理を掻き立てるようなイベントが31日には同時多発的に生じた。

ポルトガル中央銀行が同国大手銀行BESの監査結果を発表して、資本金不足を指摘。経営陣を糾弾する声明を出し、同銀行の株価は一日で4割近く急落した。

(しかし、6月に同銀行の経営不安が発覚してポルトガルショックが市場を揺らせたときも、短期に鎮静化している。)

アルゼンチンのテクニカル・デフォルトも、新興国経済懸念再燃を連想させ、市場心理を悪化させた。

(しかし、同国経済が破たん状態であった2001年のときの債務不履行に比し、現在は公的債務返済能力が改善されている。あくまで技術的債務不履行、しかも南米の一か国限定の出来事ゆえ、世界の市場を揺らすほどの「震度」ではない。)

ウクライナ問題関連で、欧米が協調して追加制裁を合意・発表したことで、ロシア経済への不安感が強まった。例えば、ロシアに1000店以上を展開するアディダス社の株価が16%急落した。

(これとて、ロシア経済に対する不安感は今に始まったことではない。欧米露関係の冷え込みも長期的な不安要因であり、31日になり急に問題視されたわけはではない。)

7月のシカゴ地区購買部協会景気指数(PMI)が前月の62.6から52.5へ急落した。2008年10月以来の下げ幅である。

(米国経済指標悪化を悪いニュースと捉えるのか、あるいはFRBの緩和継続バイアスを強める良いニュースと捉えるのか、市場の見方は分かれる。センチメントが悪化すると、悪いニュースは悪いニュースとされ、市場のムードが好転すると、悪いニュースは良いニュースと解釈されがちだ。結局は市場のポジション次第。株が買い込まれて、投資家が高値警戒感から利益確定売りのタイミングを模索しているときには、悪いニュースが売りのキッカケとなりがち。いっぽう、投資家の売りが一巡して新規買いのタイミングを探っている時期には、悪いニュースが良いニュースとされる傾向がある。)

総じて、31日のNY株急落は、長期にわたるボラティリティー低下により醸成されていた過度の楽観論を戒める「調整売り」と見るべきだろう。

奇しくも、元FRB議長グリーンスパン氏が、前日30日にこう発言していた。

「株式市場はこれほど長期にわたりこれほど鋭く回復した。こうなると、大きな調整がいずれ起こることは前提に考えるべきだろう。」

なお、バフェット氏は、31日の株急落について、米国CNBCのインタビューで「Down days make me feel better 株価が下がる日は気持ちがいいよ。株を安く買えるのだから。」と述べている。正統派の長期投資家の面目躍如たるコメントであった。

逆に、個人投資家がパニック売りに走るときを狙っているのがヘッジファンドだ。31日にはヘッジファンドの「アルゼンチン買い」がウォール街の話題になっていた。

市場では慌てたほうが不利である。

そして、貴金属セクターは利上げ警戒感から金が再度売り込まれ

1280ドル台にまで下落。プラチナからパラジウムまで連れ安。「年後半には利上げが現実味をおびて金は売られる」と昨年から語ってきた筆者から見れば、想定内の展開。ウクライナ・イラクの紛争がなければ、今頃1250ドルを割っているはずだった。そこは昨年の時点で想定できなかった地政学的リスクの台頭。

なお国内価格は円安なので円建てではかなり相殺されている。

プラチナ・パラジウムは、EU圏内の消費者物価上昇率が年率0.4%にまで下がったことで欧州経済デフレ懸念を嫌気して下げた。特にプラチナを使うディーゼル車が欧州中心なので、影響が意識されやすい。

長期的にはプラチナは欧州関連で下げたときにコツコツ拾って、いずれ再燃する南ア・ストライキ懸念で上がったときに売り払うのがコツである。

さて、昨日は村井美樹さんと対談。これで3回目かな。


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最近、テレビ番組のロケでヨルダンの死海に行ったそうで、中東の金の話とかで盛り上がりました。

民族衣装の黒衣をまとったアラブの女性たち。でも、その下にはゴールド・ジュエリーがズッシリ着用されている。女性同士だからこそ見られた光景を語っていました。

そもそも、ジュエリーは人に見せるものだけれど、人に見せられない国の女性が大量に買うのは、やはり金に文化的愛着があればこそ。民族のDNAとしかいいようがない。だからこそ根強い需要がある。私はドバイで見たジュエリーショップの試着室の話をしました。ネックレスを試着するとき、どうしても肌をさらすから、カーテンで囲った一角で鏡の前に立つ。中東ならではの光景でした。

それにしても、洒落たホテルの中庭で、スーツ着用しての撮影は暑かった~。事務所から現場までスーツ・ネクタイなど一式をキャリーバッグに詰めて、そこで着替えた。なんというか、売れない演歌歌手がキャリーバッグ引きながら、場末のキャバレー(いま、そんなのないか 笑)をドサ廻りするような感覚かな~、たった一曲のヒット・ソング「ゴールド音頭」ひっさげてね。

2014年