豊島逸夫の手帖

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世界的金利急落に臨界点の兆候

2014年8月29日


米国に年率2.3%で10年間カネ貸せるか?
更に、イタリアなら2.4%、ポルトガルでも3.1%の年率で貸すという。
現在の債券市場の10年債購入は、新発債を満期まで持ちきりとの前提で考えれば「合理的投資行動」とは言い難い。
明らかに、短期的売買で値幅を取りにきているヘッジファンドなどの動きに翻弄されている結果の異常現象だ。


彼らは、異なる国の国債利回りの差(スプレッド)に注目して売買する傾向がある。その相対的比較の投資判断からすれば、「安全資産」とされるドイツ10年債の利回りが0.88%にまで低下しているので、米国10年債の2.3%は「割高」となり、まだ2%以下まで買い余地あり、ということになる。更に、ドイツ10年債が0.88%なら、日本国債の0.5%も「割高」とされ、0.48%と1年4か月ぶりの低水準となる。このドミノ現象の結果、日本国債0.3%のシナリオも現実味を帯びてくる。元同僚の米国人ヘッジファンド運用責任者が「まさかJGBの買いに廻るとは思わなかった」と苦笑していた。


いっぽう、南欧国債については、ジャクソンホールでのドラギ講演後、ECB(欧州中央銀行)による日米型本格量的緩和を市場は期待し始めた。(本欄8月26日付参照)
ECBが買ってくれるなら、2%台のイタリア国債も、3%台のポルトガル国債も、「買い安心感」がある。


しかし、冷静に考えれば、6月にECB理事会で決定されたTLTRO(新型資金供給オペ)が実際に始まるのは9月。まずは、第一弾の追加緩和を見極めたうえで、「均衡財政のこだわりを捨ててくれれば、金融政策も、もっとやる用意はある」というのがジャクソンホールでのドラギ発言だった。量的緩和政策にしても、現在検討されているのはABS(資産担保債券)という銀行ローンを束ねて証券化した債券の買取りである。しかし、欧州民間銀行にしてみれば、TLTROなど資金供給ルートには事欠かない。ABSを発行してまで資金供給を受ける切迫感もないし、民間資金需要も低迷したままだ。ABS市場の整備も、これから民間証券会社のアドバイザリーのもとに取りかかる段階である。
仮に、国債購入型の本格量的緩和を検討するにしても、どの国の国債を購入するのか、というユーロ圏特有の問題は残る。


ドイツの量的緩和反対論も根強い。
たしかに、欧州圏の物価上昇率が0.4%というディスインフレ状況では、量的緩和の副作用としてのインフレ懸念にも切迫感は薄い。ドイツ国内にも「量的緩和やむなし」の議論が増えてきた。しかし、ワイマール時代のハイパーインフレを経験した国のインフレ・アレルギーは容易に消えない。
まずは、来週開催されるECB理事会に注目が集まるが、具体的に踏み込んだ議論はまだ先のことだろう。


このように見てくると、ECBの量的緩和をあてこんだ南欧国債買いラッシュも早晩臨界点に達するだろう。いずれマーケットは焦れる。
その兆候も出始めている。
イタリア10年債利回りは、今年年初の4%台から下げ続けていたが、8月に入って2.8%から2.4%にまで下落が加速している。
ポルトガル国債も、年初の6%台から下げトレンドは変わらず、8月に入って、3週間で3.9%から一時は一気に3%の大台を割り込んだ。
いずれも、相場が買いクライマックスに接近するときに見られる加速現象だ。
さすがに投機筋も気持ち悪いのか、売り戻しが入り、28日のイタリア10年債利回りは2.35%から2.44%にまで反騰してきた。ポルトガル10年債も、3.05%から3.17%へ戻している。 世界的金利急落現象も徐々に減速して、低位レンジに収まりそうだ。


金利を産まない金にとっては、低金利は良い材料なのだけど、ディスインフレとなると、インフレヘッジとしての金の出番は減るから、影響は相殺される感じ。
最終的には実質金利、即ち、名目金利から物価上昇率を引いた数字がマイナスであれば、銀行預金しても目減りするから金が選好される。
日本がまさにそういう状況だね。今朝発表された7月分の消費者物価指数は前年比3.3%上昇。14か月連続の上げ。一方、銀行預金の金利は相変わらずほぼゼロ金利だ。
日米欧比べると、インフレ懸念は日本が一番強い。

2014年