豊島逸夫の手帖

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欧州「日本型デフレ」に欧州版アベノミクス

2014年9月5日


4日ECB(欧州中央銀行)理事会は、利下げ・資産買い入れを決定し、更に、日米型本格量的緩和の可能性も議論されたことをドラギ総裁は認めた。

欧州版アベノミクスの第一の矢が放たれたともいえるような状況だ。
欧州経済日本型デフレの症状悪化が加速するなかで、同総裁は、第二の矢=財政政策の柔軟な運営の必要性も強調している。ジャクソンホール講演での発言だが、均衡財政を唱えていたECBの「劇的転換」として注目された。
更に、欧州経済悪化の根源的問題は「流動性」ではなく、「需要不足」にあり、雇用制度改革など構造改革という第三の矢の重要性も説いている。


そのドラギ氏の放った第一の矢だが、まず三種の金利を同時に利下げた。
政策金利を0.15%から0.05%へ引き下げ。
マイナス金利も-0.1%から-0.2%へ引き下げた。民間銀行が資金をECBに滞留させることに対するペナルティー金利を引き上げたともいえる。
そして、民間銀行へのオーバーナイト貸出金利も0.4%から0.3%に引き下げた。
この三つの金利同時引き下げは、市場にとってサプライズであった。
そして、これが「最後の利下げ」となれば、次なる金融政策は、非伝統的な量的緩和に依存せざるを得ない。


そこで、ドラギECB総裁は、ABS(資産担保証券)とカバードボンドという民間金融機関が発行する債券の買い入れも10月から実施することを明らかにした。
主として中小企業向けローンを束ねて証券化したABSと、住宅ローンを担保に発行するカバードボンドを買い取る予定という。カバードボンドまで買い入れ対象債券に加えた二段構えの欧州版量的緩和には、これまたサプライズ感があった。


更に、ジャクソンホール講演では、「6月の理事会で決定したマイナス金利とTRTRO(ターゲット型資金供給方式)の効果を見極めてから、次のステップを考慮」と発言していた。そのTRTROがいよいよ9月から開始という時期に、新たな追加緩和措置を前倒し決定したこともサプライズであった。
ジャクソンホール講演から9月4日のECB理事会の間に、次々と欧州経済悪化を示すマクロ経済統計が出たことで、危機感を強めた結果と思われる。


さて、欧州版変形量的緩和だが、まだ未完成である。その詳細は10月2日発表とされている。
その効果には不透明性も残る。ABSとカバードボンドの市場規模が、国債市場に比し限定的だ。更に、市場のインフラも更なる整備が必要とされ、大手資産運用会社ブラックロック社がアドバイザリーに指名され、制度の検証を進めている。実施まで時間を要し、その効果も緩やかであることが欠点だ。
果たして、この変形量的緩和策で充分なのか疑問が残る。


ECBの資産規模は2012年ピーク時の3兆ユーロほどから、2兆ユーロ強にまで減少している。これは、LTRO(旧資金供給方式)を通して受けた融資を民間銀行が相次いで返済したためだ。民間銀行の視点では、ストレステストにかけられ、できれば資産は圧縮したい。その結果、融資審査は厳格化される。一方、民間資金需要は盛り上がらない。
そのような状況で、中小企業向けローンや住宅ローンを束ねた債券を買い取るといわれても、どれほどの発行規模になるのか。民間の推定金額などが語られるが、減少したECBの資産規模をピーク時に回復させるに足りるか、はなはだ不透明である。
結局、バズーカ砲といわれる国債買い取りによる本格的量的緩和に踏み切らざるを得ないと思われる。
但し、ユーロ圏特有の問題として、どの国の国債を買うのか。更に、ワイマール時代のハイパーインフレを経験しているドイツは、量的緩和の副作用としてのインフレに依然神経質である。ドイツ連銀総裁はじめ反対論は根強い。とはいえ、ドイツ経済自体がマイナス成長に陥り、足元に火がついてきた。
バズーカ砲発射の環境は熟しつつある。
ドラギ総裁がジャクソンホールで語ったごとく、「やりすぎるリスク=too much」より、「やり足りないリスク=too little」のほうが強まっていることはたしかだ。
そして、金融政策だけでは「仕事はできない」ことも事実だ。


第二の矢としての財政政策にも働いてもらうというポリシーミックスが重要になる。
しかし、ユーロ圏では依然、緊縮財政へのバイアスが強い。いっぽう、域内経済の実態には、明らかに「緊縮疲れ」の症状が顕著だ。
そこで、「財政赤字はGDPの3%以下。但し、特別な場合を除く」との制約条項を「柔軟に運用」すべしとドラギ氏は述べているわけだ。同時に、第三の矢たる構造改革で需要増大の基盤を固めよ、との議論である。
とはいえ、ドラギ氏は、中央銀行総裁であり、第二、第三の矢までリード役となる立場にはない。
主権が異なる国々の寄合所帯であることも、アベノミクスの経済環境とは大きく異なる。
ドイツをコアとする北側の欧州と、南欧側の間の溝は深い。域内失業率は11.5%と高水準だが、北と南の地域間格差は歴然としている。
更に、コア側のけん引役たるドイツ経済も減速。フランス経済にも、脆弱性が露わになっている。
そのような経済環境の中で、物価上昇率が0.3%にまで急低下したことが、そもそも、今回のECB理事会での追加緩和前倒しの最大の理由であった。
この危機感が域内諸国間で共有されれば、欧州版アベノミクスのもとでの結束も強まることになろう。


このドラギ・サプライズを受けて、ユーロは急落。対ドルで1.30の大台を割り込んだ。ドルインデックスもこの2日で83を突破して84の大台に接近中だ。6月には79台であったことを思うと、急激なドル高といえる。これは、金価格には逆風。いよいよ1250ドル台に突入中だ。しかし、円安が105円半ばまで進行して、円建て金価格は下がらず。買いの値ごろ感は徐々に強まっている。我々プロでも底値をうまく拾うのは至難の業。底値圏に来たら、徐々に買い下がってゆく。モニター画面の価格が下がりつつあるなかで、買いを入れるのは、プロでも気持ち良いものではない。買った途端に、モニター画面の数字が下がるのだから。ここは、長期で見るリスク耐性が試されるところだ。私のアドレナリンは出始めています!


アドレナリンが出ると、なぜか、人間はお腹がすきます。
ということで、今日の写真は、関西の料理屋で食した、アユの写真。万願寺トウガラシと白い梨のコラボが素敵でした。アユも鱧も、熱の入れ方が命です。


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大阪で、今回こそ、憧れ(笑)の法善寺横丁に寄りたかったけど、時間切れで行けず。夫婦善哉も食べたいし。「月の法善寺横丁」とか「浪花恋しぐれ」などの演歌で聞いて(若い人は知らんやろけど)、織田作之助の小説で読んで、なにか憧れがあるのだけど。。。
だいたい、大阪行っても、北浜あたりを徘徊するだけなので、未だに、グリコの看板さえ見たことない。そもそも大阪市内の地理がピンとこない。昨日は北新地の料理屋に連れてゆかれて、あ、ここが、北か、と思ったくらい。唯一、天王寺のタコ焼き「山ちゃん」くらいだね、ディープな大阪といえば。


それから、最近、このブログ記事(本文だけ。金関連記述とプライベートブログ文は除く)が、日経電子版のトップページに載る機会が増えた。写真は、安倍組閣の日の電子版画面から。


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2014年