豊島逸夫の手帖

Page1917 G20直後、世界が見守る日本市場

2015年9月7日

G20に出席した中国人民銀行は、優秀なテクノクラート集団だ。長老を含め北京の「奥の院」の意向を受け動く。中央銀行の独立性はない。筆者が大手中国商業銀行のアドバイザリーを務めていたときにアルマーニのスーツを着こなす人民銀行スタッフと話すたびに実感したことだ。G20で中国経済の実態をこれまでより踏み込んだ表現で説明しても、実際の政策対応となると中国指導部には逆らえない。その北京の「奥の院」が最も恐れるのは失業・格差が生む社会不安だ。経済が更に減速すれば、旧経済モデルである「消費より、投資・輸出依存」の構図は容易には変わらない。人民元自由化など規制緩和・構造改革は後回しにされよう。金融緩和依存は強まり、膨張した債務が更に増える。上海株安については、そもそも政策対応では歯止めをかけられない事実を世界の目にさらしてしまった。

いっぽう、米利上げについては、G20各国からの「利上げ慎重に」コールを考慮すれば、利上げ時期は12月以降になろう。しかし、米国内に目を向ければ失業率は5.1%と完全雇用に近い状況であり、少なくとも他国より先んじて本格回復への道を歩んでいる。まずは早い時期に1回利上げして、後は、当分市場波乱の度合いを見極める案も国内では有力だ。FRBは「米国の中央銀行」だが、ドルが基軸通貨である以上「世界の中央銀行」としての配慮が期待されていることをG20は改めて印象づけた。結局、利上げ観測の不透明性は変わらない。

では、中国経済不安と米利上げという外的要因に振り回される日本の市場はどう動くのか。

世界株安連鎖で最も懸念される国は新興国といわれる。しかし、先週の各国・地域の株価指数週間騰落率一覧を見ると、突出して下げたのは日本だ。日経平均がマイナス7.02%を記録している。

8月に海外勢が2008年金融危機以来最大となる2兆5350億円を売り越したが、9月に入っても。その傾向は加速しつつあるようだ。

東京証券取引所が発表した8月投資部門別売買動向で特に気になるのは、日経平均先物と東証株価指数(TOPIX)の売越額が計1兆3768億円に達していることだ。

事実、日経平均先物では連日ヘッジファンドの空中戦が展開されている。日中の振れ幅も異常だ。CTA(コモディティー・トレーディング・アドバイザー)など超短期マネーが荒らす賭場と化したかの様相だ。

3日、4日は上海株休場で、「鬼のいぬ間に」日経平均を1万8000円の攻防ラインから、どこまで押し上げて次週に備えるか、注目された。しかし、上海株不安と9月利上げ観測の呪縛から抜け切れず、攻防ラインを死守できず1万7000円台まで続落した。

ECB理事会後の記者会見でドラギ総裁が「量的緩和延長も辞さず」と強い決意を明確にしたことで、外為市場ではユーロ安・円高が進行。更に、世界株安連鎖が米利上げ時期を遅らせるとの観測によりドル安・円高傾向になった。グローバルな市場波乱が、逃避通貨としての円への資金流入を誘発している面もある。その結果、外為市場の主要3通貨は、円>ドル>ユーロと、今や円が最強通貨である。

世界同時株安が直接的に日本株を押し下げ、「安全通貨」円を押し上げ、円高が更なる日本株の下落要因となる、という負の連鎖が生じてきた。

いっぽう、日本勢も果敢に海外勢の売りに買い向かっていた。8月第四週には、個人や公的年金マネーとみられる信託銀行の買いも急増した。

しかし、先週は、個人投資家も日経平均の空中戦を見守るばかり。公的年金マネーも、そろそろ日本株運用比率上限に接近中だ。

「G20より、日本の政局が気になる。今や、株価がアベノミクス成否を揺らせている。その時期に、政治は安保法制・オリンピック関連・維新分裂などの議論ばかりだ。今の日本株を売り崩せるのはイージー=容易なこと。」

G20終了後の緊急電話会議で感じた、後輩のNYヘッジファンドたちの本音だ。実は、ヘッジファンドの8月市場波乱で、大きな損失をこうむったことが、投資家向けレターで続々明るみに出ている最中なので、彼らも失地挽回をめざし必死なのだ。電話会議でも、「物言う株主」として日本でも知られるサード・ポイント、ヘッジファンド業界の大御所ポールソン、著名投資家アインホーン氏率いるグリーンライト・キャピタルなどが続々8月の損失で、1~8月の運用実績がマイナスに転じた模様との話でもちきりだった。切羽つぱったヘッジファンドが、日本株に売りの照準を向けていることを実感した。

グローバル・マクロ系ヘッジファンドからは、「量的緩和延長示唆のドラギ総裁の何でもやる発言に比し、黒田総裁の何でもやる発言はレトリック=言葉だけで具体性に欠ける。」との指摘もあった。

この悪い流れを断ち切るには、日銀追加緩和しかない。

日本株に投機的売り攻勢をかけるヘッジファンドが最も恐れるシナリオでもある。

なお、筆者が懸念することは、米年金など長期マネーの日本離れの兆候だ。彼らが好むTOPIXも売り越しの波に巻き込まれている。

日銀追加緩和で何を買うのか、緩和も追加ごとにインパクトも逓減するもの、などの指摘が聞こえてくる。

米二位年金のケース・スタディーに関しては、3日付け「米国の「クジラ」、利上げ波乱に備え資産組み換えへ」を参照されたい。

8月31日付け「ギリシャのおじさん」で、日経平均1万7000円、円110円という当時としては「大胆な予測」を書いた。その後、日経平均は、筆者の想定より早いペースで現実味が増してきた。円相場は、アルゴリズム高速度取引が席巻している。先日の116円突風劇の実例に見られるように、短時間に集中的に買われる「円高の落とし穴」が生じれば、110円台前半が短期間限定で示現する局面も絵空事とはいえない。

株価・円相場を見るかぎり、アベノミクスは正念場を迎えている。

ページトップ