豊島逸夫の手帖

Page1921 イエレン議長の悪夢

2015年9月11日

利上げはしたものの、直後に上海株が再暴落。中国からの資本流出が加速。外為市場ではドル高が急進。FRBは、一転、利下げを考慮せざるを得なくなる。

世界株安連鎖を「利上げがもたらす市場波乱の予告編」とすれば、本編で十分にあり得るシナリオだ。

イエレン議長にしてみれば、考えたくもない話だろう。

FRBは、市場の信認を失いメンツは丸つぶれ。誇り高き中央銀行家にとって、耐えがたい事態となるは必定だ。共和党議員たちは、ここぞとばかりに、FRB監査必要論のボルテージをあげることになろう。

こう考えると、イエレン議長の本音は、12月、あるいは来春まで利上げ決断は様子見ということになりそうだ。

しかし、金融節度を重んじる正統派中央銀行家の建前としては、バブルを想起させるゼロ金利という有事対応の非伝統的金融政策を継続することには、かなりの抵抗感もあろう。イエレン氏は、常々、利上げという単語より、金融正常化という表現を好んで使う傾向がある。そこには、非正常な状況から一刻も早く脱したい、との思いが滲む。中央銀行家の矜持とでもいえようか。

そのFRB議長に、市場は、利上げするのか、しないのか、決断を求めている。ジャクソンホール中央銀行シンポジウムも、明確な理由なく欠席したことが、今となると、現実逃避の行動にも見えてしまう。マーケットの苛立ちが、世界株安連鎖の一因となったことは否定できまい。

やはり、超優秀なエコノミストは、イエレン・ダッシュボードなどの説明を得意とするが、経営者的決断は苦手と見える。

世界株安連鎖のセリング・クライマックスを乗り越えた市場は、8月雇用統計に新たなヒントを求めていた。

しかし、新規雇用数は減ったが失業率は下落。平均時給・労働参加率・パートタイマー数などイエレン・ダッシュボードの雇用の質の部分は、構造的問題ゆえ、月次統計で大きな変化が生じるはずもない。かりに大きく変化しても、統計的な「外れ値」(ノイズ)と扱われる可能性がある。

おりから、市場では、金融界の大御所サマーズ元財務長官の「利上げ反対論」が話題になっている。

かねてから標榜している「経済長期停滞論」に基づく見解を、色々なメディアで語り始めた。

LHSummersのツイッター・アカウントでも、8月24日から、急に呟きが増えた。

「利上げは、物価・雇用・金融システム安定の中央銀行政策目標全てを脅かす。」

「今の問題点は、投資家のリスク志向とか過信などにあらず。FRBは投資家に警鐘を鳴らすようなショックを与えるべきではない。」

「FRBの次の一手が引き締めになるということが明確とは言い難い。」

最後の呟きは、引き締めでないなら、緩和ということか。それは、QE4を意味するのでは、との観測も生んだ。

利上げはおろか、量的緩和再開せよ、とも読めるのだ。

ここで、話しは冒頭に戻るが、中国発世界株安連鎖劇が、利上げ前に再発して新興国発の経済危機に発展するおそれが強まれば、QE4発動も絵空事とはいえまい。

既に、新興国経済は、世界株安第一ラウンドを経て、かなり疲弊している。ここで、1か月ほどの水入り後、第二ラウンドとなれば、複数の新興国がカウント8のダウンからノックアウトになるだろう。

かねてから、FOMCは、利上げ判断はデータ次第と語ってきた。

しかし、データに頼り、ダッシュボードの全ての計器信号(=景気信号)が青色のゴーサインになるのを待っていても、きりがない。

筆者は、株価が8月の世界同時株安直前の高値を本格的に回復するときが、利上げのタイミングとにらんでいる。

以上、先週の日経ヴェリタス・コラム「逸's OK!」の元原稿に若干アップデートしました。

いよいよ、来週はFOMC。

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