豊島逸夫の手帖

Page2266 3月利上げ説の死角

2017年3月6日


「今後の利上げ過程は、昨年一昨年ほど緩やかではない。」とイエレン議長は講演で述べた。とはいえ、条件つきで、「想定外の展開が、経済見通しを悪化させなければ。」との但し書きがついている。
では、その条件とは具体的に何であろうか。
やはり、トランプ大統領にまとわりつく予見不可能な不透明性であろう。
週末には、唐突に、オバマ前大統領がトランプタワーを盗聴したとツイッターで激しく数回にわたって非難した。かなり感情的な表現も混じり、施政方針演説で見せた「大統領らしさ」を自らかなぐり捨てた感がある。初の議会演説を無難に切り抜けたと言う安堵感から買いが入った株式市場から見れば、「あのお行儀の良さは、あの1時間のことであったか」と思えてしまう。トランプ政権の複数の人物がロシアと接触していたとの報道から国民の目をそらす意図も指摘される。いずれにせよ、現大統領が前大統領の盗聴疑惑に言及するとは異例の言動ゆえ、その真偽次第で、トランプ大統領への信頼性が揺るぎかねない。しかも、関係者の問題発言など、いつ飛び出してもおかしくない。


更に、今朝は北朝鮮、ミサイル4発連射の報が飛び込んだ。現地日曜夜のNY市場にも気になる展開で、問い合わせが舞い込んでいる。トランプ大統領は「対北朝鮮で軍事介入も辞さず」の構えで、軍事予算も10%増額に動いた矢先のことゆえ、「有事」を懸念している。日本の排他的経済水域(EEZ)に落下したとされる3発を、気性の激しいトランプ大統領が挑戦と受け止め、強硬に反応するリスクである。
先週金曜のイエレン講演後、勃発したこの二つの問題は、今週、思わぬ展開を見せる可能性を秘める。


なお、2月の雇用統計も気になる。金曜の講演で、イエレン議長は、具体的に新規雇用者数について語っている。
「月18万人増のペースは、長期的労働人口増加傾向とされる7万5千人から12万5千人を上回る。」
それでも、緩やかな緩和ペースが続いてきたのは、インフレ率が、2%を「やや」下回るからだとする。
では、2月雇用統計で、仮に5万人以下の数字が出たら、利上げ判断に影響するのだろうか。それほど雇用の数字が悪化するとは思えないが、振れの大きな月例統計ゆえ、予断を許さない。


総じて、市場は、FRB高官たちの利上げコーラスを実質的なフォワードガイダンスと受け止めている。それでも、イエレン講演後、市場の法則に反して、ドル安・円高に振れたのは、ドル買いポジションを積み上げた通貨投機筋が、あまりの利上げ確率急上昇に、利益確定を急いだからであった。彼らには、「バーナンキ・ショック」の苦い経験が未だにトラウマとなっている。2013年5月に、バーナンキ前FRB議長が、「テーパリング=緩和縮小」に言及したことで、世界の市場が大混乱に陥ったことが、忘れられない。
現在は、イエレン議長も市場とのコミュニケーションを重視するので、FRB発の市場混乱は考えにくいが、トランプ大統領は「市場との対話」を考慮しているようには見えない。
ここが、3月利上げ説の死角といえよう。


イエレン講演後、金価格は、ドル安に反応して、1230ドル台だが、やや上がっている。利上げなら、金利を生まない金は売りのはずだが、市況の法則に反して、買われているのだ。それでも筆者は3月利上げなら1210ドル程度までの下げを見込む。下げが限定的なのは、欧州選挙リスク、トランプリスクが払しょくできないからだ。利上げをこなせば、また、上昇トレンドに戻るだろう。利上げの頻度を表わすドットチャートが3月FOMC(14~15日)で発表されるので、これには注目。2017年利上げ回数、3回4回の可能性が強まると、金には下げ材料になるからね。


先週土曜日の日経朝刊マーケット面に、金関連記事が載っている。

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