800ドル割れ

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2008年8月18日

ドルの対ユーロ相場は1.60から1.46まで反騰。原油は140ドル台から110ドル台まで急落。ドル安、原油高という二大推進要因が反転したところで金価格は失速した。筆者は850ドルを下値と見ていたが、それもあっさり下放れ。850ドルが強い下値抵抗線であっただけに、割れると損切り売り注文(ストップロス)に火がつく。アッという間に800ドルも割れた。夏季休暇中で市場参加者が少ない時期に、まとまったストップロスが相次ぎ、大台を次々に割り込んで行った。その間、実需買いもアジア中東で相当量出て、現地の市場では金地金(現物)が品薄状態になっているほどだ。でも、NYのファンド売り手仕舞いの短期的インパクトは、現物買いのそれを遙かに上回る。

銀、プラチナは暴落状態といっていいであろう。マーケットの器(流動性)が小さいことでボラ(価格変動性)がどうしても高くなる。加えて、金は金融商品として金融不安時に"質への逃避"マネー需要が生じるのだが、銀プラチナは純然たるコモディティー(商品)ゆえ、景気減速による需要減の面だけが強く出がちだ。

さて、問題は今後の金価格動向。商品としての需要は高値圏で減少傾向が顕著であった。これは先週発表されたWGC金需給四季報でも、世界の金需要4-6月期、前年同期比21%減という数字により確認されたところだ。高値による負の価格効果と景気減速による負の所得効果が同時に働いている。でも850ドル割れでは一挙に現物買いが噴き出している。(足元では 行って来いの投機売買にかき消されているだけの話)。

一方マネーとしての金を見ると、長期的金価格上昇トレンドは変わっていない。米国金融不安は依然くすぶり、信用リスクは高い。ドル高といってもユーロ経済がこけただけの話で、ドル、ユーロ、円の弱さ比べとは前々回の本欄でも語ったところだ。今のドル高をもってドル凋落傾向の終焉とかドル復権を論じるのは無理がある。原油も下がったとはいえ、一昔前なら目をむくような水準(110ドル台)である。これで安くなったと感じるほうが、感覚がマヒしている。

ただし、最大の問題はドル金利動向だ。金の最大の欠点は金利を生まないことゆえ、FRBのスタンスが利上げに傾けば、売り圧力は強まる。振り返ってみれば、昨年のお盆以降、サブプライム悪化の中でFRBが追加利下げを繰り返す度に金価格は50ドル、100ドルと水準を切り上げていった。ゆえに、その逆の展開になれば、"巻き戻し"スパイラルの中で金が50ドル、100ドルと水準を切り下げてゆくシナリオになるわけだ。この一か月で1000ドル近くから800ドルを割り込んだことは、そのシナリオを先取りしてファンドが売りに走った結果と言えるだろう。いわば利上げを織り込んだ金の下げなのだ。

では、本当に利上げとなるのか。FRBがFOMCでインフレ懸念を以前より強く匂わせていることは間違いないが、景気減速、金融不安という市場環境の中で本当に利上げ出来るかという点では懐疑論が強い。筆者は依然から逆に緊急利下げだってあり得るほどに米国マクロ経済はダブルディップで悪化していると説いてきた。その考えは変わっていない。肝心の不動産不況に出口は見えないし、サブプライムの実態経済への波及も顕著である。

金価格に話を戻せば、今が陰の極だと思う。奇しくも一年前のお盆直後には金価格がファンドの一斉売り手仕舞いで650ドルまで急落していた。サブプライム悪化の中で、リスク回避の動きが加速し金は売られ、金融危機にも役立たない金というような記事が書かれた。しかし、9月から金は"質への逃避"マネーを集め、1000ドルに到る上昇を開始することになる。(振り返れば半年で650ドルから1000ドルへ急騰したのだったねぇ...)。

今年も全く同じ展開になるとは思わないが、800ドル割れは売られ過ぎ。アンダーシュート。まだ、売りの第二波、第三波は来るだろうが、投機筋のポジションが軽くなればなるほど新規買いの入る余地が増すことも事実。ゼロサムゲームの短期売買が一巡すれば、実需や年金などの長期買いがボディーブローのように効いてくることもお馴染みのパターンだ。

外電などを見ていると金が上がれば"輝きを増す金"と持ち上げ、下がれば"輝きを失った金"と書きたてる。金の輝きが一か月やそこらで変わるわけがないでしょ。でも、個人投資家としては、そういう否定的報道が満ち満ちている真っ只中で買い向かうというのは、いやーな感じだし、勇気もいる。かくいうプロだってイヤなものだよ、買い下がるというのは。だから、自己性格診断したうえで、リスクに対する耐性が弱いと感じる人は手を出さないほうがいい。ライフスタイルを地味にして節約によって乗り切るほうを考えるべき。お隣さんがなにか投資で大儲けした話を聞かされても心を動かしてはいけない。ゴーイング マイ ウエイを貫くこと。

一方、リスクに対する耐性があると感じる人であれば、ファンドが売ったところは長期的に買いのチャンスと捉えることが出来る。

マーケットの次なるポイントは以下の通り。
―中国経済成長が減速しているが、下がっても8%台である。米国が風邪ひいて中国にも伝染しつつあるが、肺炎にはならない。金需要も前年同期比7%増と、これまでの20%台からは減速したが、依然プラスの増加基調が続いている。
―金融危機はあくまで"小康"状態である。不動産価格が反転しなければ根本的解決にはならない。
―利上げ観測後退=ドル安再燃のシナリオが秋口にかけて十分に考えられる。
―その中で、原油は市場規制の話が効いているから原油安=金安の連動局面はあろう。

以上を総括すれば、調整に時間はかかりそうだが、年末にかけてまだ二波乱、否、三波乱はありそう。今回のように1か月で200ドル下がることもあれば、3週間で200ドル上がることも十分にあり得るのが、昨今のマーケットの特徴だ。今の市場の一か月というのは実に長―い30日であるよ。否、1日だって長―い24時間だ。マーケットのセンチメントが180度コロリと変わる。

目先は戻り売り。長期的には、その調整期間が、陰の極と見る。