現場発 アイルランドからのレポート

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2010年11月24日

今週はユーロ危機の実態をこの目で見るためにアイルランドのダブリンに来た。来週は中国経済引き締めの実態をこの目で見るために中国に行く。しかし北朝鮮にまで行く気はない(笑)。何事も経済統計データだけでは納得せず。まずは現場主義というのがマーケットで育った筆者の考え方である。

首都ダブリンは日中でも5度。「晴れ」が最高のプレゼントと言われるくらい雨の多い街だが、今日は快晴に恵まれた。テレビでは緊縮政策反対のデモが繰り返し報道されるが、現地では国民が粛々と働き、町中を歩く人たちから破たんの崖っぷちという極度の切迫感は感じられない。しかし笑いが少なく、年金、賃金カットなどを必死に耐えている様相だ。

アイルランド人は人懐っこいことで知られる。お喋りすると必ず「ご出身は?」「ご家族は?」と、家族のことを聞いてくる。たとえば弟がいるとか何か共通項があると、私もよ、と嬉しそうに話が弾む。

首都のダブリンといっても静かで綺麗な町並みで、大都市という感じではないので、市民の多くがお互い遠い親戚関係とか共通の友人が多い社会だ。だから「お隣さんも友達も、厳しい緊縮政策に耐えているのだから私も耐えねば」という自制が働く。しかし、それも、そろそろ限界という段階だ。

実は、この、ひとの良さが禍した部分もある。知人を敢えて非難しにくいという風潮があるからだ。だから銀行監督当局もアングロアイリッシュ銀行の放漫経営に際して、なあなあ主義で対応した。楽しむも苦しむも、皆、同じく、というグループ行動の発想は日本人と通じるものがある。島国だからか。

ゆえに銀行が経営不安に陥ったときも、預金者「全員」を政府が保護するという決断は至極当然のことであった。まさか、そのツケがかくまで納税者「全員」を襲うとは想像もできなかったと見える。

ユーロに加入したことも、地域統合のメリットより、デメリットのほうが強く出てしまった。ユーロ圏の金利水準に合わせるため、当時としてはかなりの低金利水準に移行したことで、おきまりの過剰流動性が発生して不動産バブルを招いたのだ。ダブリンの普通の住宅価格が平均5倍に急騰した。

資本移動の自由化で、欧州のアリ組ドイツからの資金流入がとくに急増。その結果、現在、アイルランドへの債権の国別内訳はイギリスに注ぎドイツが1390億ドル相当と第二位になっている。

街を歩くと東欧系が多いのだが、これは不動産ブームの当時に流れてきた人たちだ。優秀な技術者から夜の蝶さんまで多岐に亘る。そして、これもおきまりのバブル破たん。こうなるとユーロ導入が、またまたキツイ結果を齎すことになる。

共通通貨を採用した結果、自国通貨を切り下げて凌ぐことが出来ないから、輸出競争力を維持するためには人件費などとカットするしかない。為替政策が働かないと、国民に過酷な痛みを強いる緊縮政策で対応するしかないのだ。

しかし、ユーロ導入の唯一の慰めといえば、もし自国通貨のままであったなら、切り下げが通貨暴落に進行して、中央銀行は極端な外貨不足に陥り銀行危機が悪化していただろう。ユーロという「大樹」に守られて経済が延命できたことは間違いない。

と、ここまで書いてきたところで、お迎えが来たから今日はここまで。なお、日経マネー本誌の筆者連載コラムが今月からリニューアルして、「現場発 国際経済の見方」というタイトルになり、「金を通して」という縛りがなくなったので、より広くマクロ経済を語れるようになった。以下の目次の22-23ページ参照↓
http://special.nikkeibp.co.jp/ts/article/a0aa/107327/mokuji.pdf

今回は日中通貨戦争について書きましたから、買って(笑)、読んで、感想をとじこみ葉書に記して送ってくださいね。次回からは、「現場発 アイルランド危機」、そして「現場発 中国引き締めの実態」などを書きますから、請うご期待!

さて、マーケットは朝鮮半島危機とユーロ危機がダブルで効いて、金とドルが避難通貨として買われる展開に。逆に、景況敏感メタルの銀やプラチナは危機に際して売られる成り行き。久し振りに地政学的要因が浮上してきた。ロンドン市場でも大きな材料として扱われているが、展開が読めないので模様眺めというのが実態である。

なお、一般的に言うと、有事の金買いは要注意である。派手な要因だが、マーケットへのインパクトは一過性に終わることが多い。ただし、今回はユーロ危機と同時進行なので増幅効果が見られる。ユーロ危機のほうは、長引くことが必至。とくにギリシア危機の時は、救済策発表直後にギリシア国債利回りが12.45%から7.24%にまで下がってくれたが、今回のアイルランド危機は救済策そのものが国債保有者にも損失が及び、元本の一部しか償還されない可能性が(メルケルの強い要請で)強まっているので、却って債券市場では不安感が拡大中だ。なお、ギリシア国債の利回りも、結局は11%以上にまで戻ってしまっている。

さて、筆者は欧米出張の度に妻にお稲荷さんを30個ほど作ってもらい、自家製ガリもたっぷり持ち歩くのが常。コテコテの洋食が苦手という(国際畑が長いのに)体質は、マルドメ(まるでドメスティック)なのだ。今回もダブリンに着く頃には、お稲荷さんの在庫も、あと5個まで減ってしまった。どうしよう...(笑)。

先週末の博多セミナーで差し入れていただいた、ちんこく饅頭と、草木饅頭と、羽二重くるみと、銘菓鶴乃子も持ち歩き、デザートにパクパク。風邪で発熱気味でしたが、これも持参の、かりん蜂蜜飲み続けて直りました。愛知県江南市のときにいただいたアンゴラ製のシャツが極寒の地では役立ってますよ!