豊島逸夫が読む「どうなる人民元」

Page1994 豊島逸夫が読む「どうなる人民元」

201618

そろそろ一服感も漂う人民元相場だが、管理する中国人民銀行は綱渡りを強いられている。

国内では景気浮揚のため利下げ中だが、米国は利上げを開始した。その結果、マネー流出が加速して、対ドルで人民元は安くなりがちだ。資本逃避も顕著だ。これを見た国際通貨投機筋は、香港やロンドンの海外(オフショア)人民元市場で、人民元売りに走る。すると、中国国内の規制された人民元相場との間に乖離が生じてしまう。この現象は中国人民銀行にとって、非常に都合が悪い。人民元自由化を条件に、IMFのSDR(特別引き出し権)構成通貨として人民元を入れてもらい、「国際準備通貨」としてのお墨付きを得たばかりだからだ。

但し、中国政府から見れば、「結果オーライ」の面もある。人民元安は中国製品の輸出競争力を高めるからだ。かりに「通貨安競争」「近隣窮乏化政策」と批判されても、人為的介入ではなく市場原理に基づく人民元安と説明できる。

とはいえ、人民元安が、更にマネー流出を誘発する負の連鎖に陥ると、これは看過できない。特に、ドル建て債務をかかえる中国企業にとっては、景気減速・債務負担増のダブルパンチとなる。

ここは、人民元安を秩序ある速度にコントロールする必要があるのだ。そのためには、中国人民銀行が随時、人民元買い・ドル売りの市場介入を続けねばならない。そのために必要な外貨準備は潤沢にある。とはいえ、一時は4兆ドル近くまで膨張した外貨準備も、7日発表された12月末時点では3兆3300億ドル程度まで急減している。それでも、まだ中国の外貨準備はダントツの世界一だ。しかし、この市場介入には副作用がある。人民元買いを伴うので、中国人民銀行が介入すればするほど、ただでさえ減速中の民間中国経済から、マネーを吸い上げるという引き締め効果という合併症が出てしまうのだ。

更に、徐々に人民元安に誘導するということは、投機筋に簡単な収益機会をもたらす。次の一手は人民元買い・ドル売りと分かっているのだから、容易に足元を見られてしまうのだ。国際経済学の教科書にも、管理された通貨切り下げは、通貨投機を助長すると書かれている。実は、これまでには、投機筋をかく乱するため、人民元変動幅の範囲内で、意図的に人民元売り・ドル買いオペを実行して見せることもあった。しかし、今の状況でそれをやったら、人民元安容認・通貨安誘導の誹りを受けてしまう。

そして、中国特有の現象だが、中国人民銀行に中央銀行の独立性は無い。党の指示を忠実に実行する、極めて有能なテクノクラート集団なのだ。その党は、国力低下と映る外貨準備の急減に強い不快感を示す。

こうなると、四面楚歌の中国人民銀行は他力本願となってしまう。皮肉なことだが、人民元発の上海株波乱は世界の市場の不安定要因となり、米FOMCの利上げ回数を減らす要因になりうるからだ。利上げが緩やかであればあるほど、中国からのマネー流出も緩やかになり、人民元売り圧力も弱まる。

それゆえ、今晩発表の米雇用統計を、中国人民銀行はいつになく注目しているだろう。できれば、雇用統計悪化→利上げ回数減を期待しているのではあるまいか。しかし、直近のADP民間雇用統計や新規失業保険申請件数を見る限り、中国人民銀行の淡い期待も失望に終わりそうだ。

なお、上海株市場では、5日前に導入されたばかりのサーキット・ブレーカーを早くも撤回。そして、昨年7月以来禁止されていた上場企業の大株主や経営陣による保有株売却が本日解除されるが、それに代わり新たな売却制限を発表した。

規制当局の狼狽ぶりが透ける。筆者が体験した実態については、7日付け日経電子版下記原稿「株式投資「後進国」中国の危うさ」を参照されたい。

北京で開催された銀行向け外為セミナーにて。

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質問者は中国人民銀行外為部門トレーダー。同部署には30代を中心に女性が多い。

以下が、昨日午後に書いた原稿。

株式投資「後進国」中国の危うさ

筆者が上海の取引所アドバイザリーを務めたとき痛感したこと。それは、上層部のマーケット感覚欠如だ。多くの場合、党への貢献度が評価されての報奨人事。地方の党書記などが、いきなり、デリバティブの取引に関わるような事態になる。

その上層部に原油市場についてレクチャーしたときのこと。

生産者が売れば、価格が下がる、と当たり前のことを話したら、待ったがかかった。「売らせねばよいではないか。」の一言。

こちらは「売れば下がる。」といい、あちらは「売らせねばよい。」と言い張る。話がかみ合わず30分も経ち、ラチがあかないので、ここは棚上げにして、次の話に移ったものだ。

そういう経験をしてきたので、サーキット・ブレーカー導入も、「売らせねば良い。」の発想と同じだと感じた。

相場の過熱に対し、冷却期間をおくという考えにはならないだろう。

いっぽう、いきなりサーキットブレーカーを発動された中国人個人投資家の戸惑いも手に取るように分かる。いきなり売買できなくなる、という恐怖心からパニック的衝撃を受けたことであろう。

なにせ、株式投資ゲーム・アプリで「練習」して、いきなり信用口座を開設するような初心者個人投資家たちだ。そのアプリにサーキット・ブレーカーでいきなり売買停止などの事例が入っていたとは思えない。

仏作って魂入れず、とでも言おうか。

取引所の器は出来ても、取引所環境が、いかにも稚拙の感は否めない。

上海・香港間の株式相互取引(通称、直通車)もシステムトラブルで充分に機能を発揮できずにいる。

そういう市場のサーキット・ブレーカー発動が、世界の株式市場を揺らす事態になってきた。中国個人投資家の金融リタレシー・レベルが上がるには、まだ相当の時間がかかる。いっぽう、取引所にマーケット感覚を備えた人材が抜擢される気配も感じられない。

世界のマーケットも、このようなリスクを抱えることは、想定外であったろう。

筆者がアドバイザリーを務めた大手商業銀行支店内の先物売買体験コーナー。

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初心者がゲーム感覚でキーボードを叩く。


そして、金価格はやっと1100ドル台回復。ここまでマーケットが神経質になると、さすがに買われるね~。やっと、私の2016年見通しレンジの下値まで上がってきた(笑)。

最後に今日の写真。

大好物のコハダとツブ貝。




コハダは、シンコみたいに細かいのは味がない。ほどほど大きいのが、本当の味がある。

なお、今日詳述した中国経済について、12日BSフジ「プライムニュース」に生出演して、8時から10時まで2時間議論する。