豊島逸夫の手帖

Page563 Patient money(我慢強いマネー)

2008年9月24日

バフェット氏がゴールドマンサックスの永久優先株50億ドル取得へ。
PE(買収ファンド)のブラックストーンの不良債権買取の動きにも注目集まる。

今、米金融危機回避のために最も必要とされているマネーが、"patient money"。4半期ごとにmark-to-market(時価会計)で発表される企業業績に"一喜一憂しない"マネーが、"白馬に乗った騎士"として米金融機関救済に駆けつけることが最も望まれる。

バフェット氏が取得するのはpermanently preferred shares=永久優先株なので、"経営に口出しはせず任せる。たとえ破たんになっても債権者順位は最後位で良い。"という、正にpatient moneyなのだよね。

公的資金は、昨晩のポールセン、バーナンキ揃い踏み議会証言の熱い訴えに対する政治家の反応を見る限り、政治的配慮に"一喜一憂"しそうなマネーの類に入る。有力議員の発言"神様は7日でこの地球を創ったとされるが、だからといって、この大問題を7日で解決できるとは限らない"。

この議論はどっちに転んでも問題が残る(trade-off)から厄介だ。政府の不良債権買取価格が高ければ金融機関は救済されるが、納税者負担が増えて財政赤字も増加。モラルハザードの問題も残る。逆に、政府の買取価格が安ければ、金融機関の評価損がますます増えて市場不安が解消されない。この二者択一がワシントン(議会)に委ねられたわけだ。

そこで、もうひとつの"白馬の騎士"マネーと持ち上げられたのが、我がジャパンマネー。当然、日本のメディアは日本の金融機関が"救済に乗り出す"と書きたてる。でも、金市場で海千山千のユダヤ人、中国人、スイス人とやりあってきた筆者から見れば、彼らの発想が痛いほど分かる。ここは"金持ちのお坊ちゃんを引き出しておいて、また事情が良くなったら、その時は考えるさ"。あまり人ごみに出たことのないお坊ちゃんが外出すると、免疫もないから風邪をひきやすい。外の世界の悪性サブプライムウイルスも、外出しなければ感染もしなかったけどねぇぇ...。

総論は筆者も賛成だよ。これから日本の頼る資源は1500兆円の個人金融資産しかないのだから、それを効率的に活用して債権国として生きてゆくしかない。でも、まだ国際金融市場では英語さえ満足に喋れず世間知らずのお店(おたな)の若旦那なのだから、みずから店を継ぐより、養子を取って店の経営は任せ、自分は趣味の世界に生きるほうが日本人のDNAに合っている。そこにモルガン家から願ってもない縁組話が飛び込んだ。これを逃す手はないでしょう。

皮肉なことは、日本の金融機関の国際部門の良い人材が、すでに大量にモルガン家に嫁いでいってしまったことだね。それでも現場には優秀な人材がまだ多いのだが、本社の司令塔は全くの別世界で、会社の内にしか目が行かない"裸の王様"みたいな処があるから心配。日本の場合は人事ローテーション主義でジェネラリスト(どの部門も如才なくこなす、なんでも屋さん)が主流の道を歩んできた歴史があり、最近は変わってきたが、それでもバッドマーク(人事評価の減点)の一番少ない人物が最後まで残る印象は否めない。

筆者は友人に日本軍も外国軍も色々居るからその絶対的差が痛いほど分かる。でも日本人としては気張ってほしいね、ここは。

それから、一昨日のNY原油先物市場で歴史的なshort squeezeが起こった。決済期限日となった10月渡しの価格が120ドルへ急騰。日中の高値は130ドルまであった。ところが11月渡しとなると109ドル。高値も110ドル。受け渡しが来年以降の先物価格も軒並み10月渡しを遙かに下回る現象。これは専門用語でbackwardation(バックワデ―ション)と呼ばれるのだが、足元で現物が超不足したときに起こる。一昨日の場合は、市場に先安観が支配する過程で10月渡しにも大量のショート(空売り)が溜まっていたのだが、いよいよ決済期日になって現物の受け渡しを迫られる。ところが空売りとはよく言ったもので現物が手元にあるわけではない。そこで足元みられ、先述の海千山千の連中は知らん顔しつつ、買いを入れて10月限の価格を吊り上げる。売り方はパニックになって買い戻しに走る。これがショート スクイ―ズと言われる現象で、その教科書的な例が一昨日起こった。一部にはこれで商品にマネー再び大量流入とは囃す人たちもいるけど、それは違う。事実、昨日のNYMEX原油は10月渡しの価格は期日過ぎてボードから消え、11月渡しは107ドル以下で引けた。

なお、ゴールドマンサックスは今年年末の原油価格予測を149ドルから115ドルに大幅引き下げ。6か月予測も142ドルから123ドルへ。2009年も148ドルから123ドルへ。但し、このレポートが出た先週は原油価格100ドル以下に下落し弱気論が支配的な中で、彼らはここはoversold(売られ過ぎ)だから、buying opportunity (買い)だと明言していたわけだ。座布団3枚!

それからユーロが対ドルで一時1.49まで反騰した。一日で400bp、ドル円で言えば4円動いたわけで ドル高、ユーロ安の流れもそろそろ先が見えてきた感じ。

NY株は、空売り規制で金融株の空売りに一斉に買い戻しが入って反騰したが、それが一巡すれば、また元の状態へ逆戻り。上がってもショートカバー ラリーの域を出ず。

金価格は一昨日910ドルを超える場面もあったが、その後890ドル台で推移。とくに金ETF残高が一昨日は24トン、昨日は47トンと急増している。株から金へのマネーシフトとは言い古されたことだが、数字で検証されたカタチだ。NY金先物買い残高も先週は久しぶりに増加(23.7トン増えて280.8トン)。原油の先物には空売りが大量に溜まっていたが、金の先物は基本的に方向性が(ネットで)買いのポジションであることが最大の違い。今回の原油のショートスクイ―ズで原油の空売り筋もかなり痛い目にあったし、金にも空売りが出始めた矢先に9月危機で金急騰し、ここでもショートは痛い目に会った。しばらくはショート筋もおとなしくなりそう。

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