「失敗は勇気になる」
Text by

松浦 弥太郎

Yataro Matsuura

なさま、こんにちは。

いかがお過ごしでしょうか。吹く風も次第に夏めいてまいりました。

先日、メンターと話していて、なるほどと膝を打ったことがあります。それは、仕事が遅いのは「能力の問題」だけど、仕事のスタートが遅いのは「姿勢の問題」ということ。なるほど!耳が痛い人が多いのではないでしょうか。

能力というのは、人それぞれだから助け合うことはできる。しかし、仕事に対する姿勢というのは、干渉することも助けることもできない。

メンターはこうも言います。「とにかく仕事というのはスピードが大切だから、常にフライング気味くらいがちょうど良い。誰よりも早く仕事をスタートさせることが大事。もし自分の能力に自信が無いと思うならば、スタートを早めれば、能力の高い人にも勝てる。」と。この場合のスタートというのは、朝早くから仕事をするということではなく、とにかく早く動き始めるということです。

そんなメンターを見ていて感心するのは、話している途中に思いついたアイデアや気づきは、すぐにその場で電話を使って、メンバーと共有したり、人の紹介なども「あとで」ではなく、その時その場で「今すぐ」行ってしまうのです。「今すぐ」できることを「今すぐ」やってしまえば、忘れてしまうリスクもないし、仕事は増えず、物事が早く動くのです。

さて、前置きが長くなりましたが、今回お話するのは、失敗についてです。

現代は便利な情報ツールがたくさんあって、迷うことも失敗をすることもない時代と言えます。たとえば地図アプリのおかげで、世界中どこにでも迷わずに行けるというように。何ひとつ失敗をしたくないのは当然ですね。

お金の使い方も同様で、商品レビューを読んだり、投資についての掲示板などで様々なコメントを読んで、買い物も投資も、ある意味、手堅く、賢くなりがちです。

けれども、失敗をしないことくらい怖いことはないと私は思っています。どんなことでも、失敗をするかもしれないという仮説を持ちながら行うのと、失敗は決してあるはずがないと思いながら行うのでは、そのプロセスにおける様々な発見と、経験の学びに雲泥の差があります。

私が怖いと思う理由は、失敗の仮説を持たずにいた場合、万が一、起きてしまった失敗に対して対応が遅れてしまったり、失敗によるダメージを受け止められないケースがあるからです。

失敗というリスクを負う準備ほど、価値ある学びはないとも、私のメンターは言います。

いつかお話した「成功の反対は失敗ではなく、何もしないこと」という名言がありますね。この言葉の本質は、成功にも失敗にも大きな価値があり、最も価値がないのは何もしないことです。失敗を恐れるあまりに、勇気を失い、何もしない人になってしまうことくらい残念なことはないのです。

私はこれまでたくさんの失敗をしてきました。仕事について、お金の使い方について、人間関係について、投資について、事業について様々です。

その失敗は、「失敗ノート」に克明に記録をして、決してその失敗を忘れないように、そして二度と同じ失敗をしないように心がけています。よく考えると、失敗こそが自分を育ててくれたとも言えます。そのくらいに失敗は、自分の成長の糧になっているのでしょう。

私の知る著名な投資家の方々にお話を聞くと、誰もがたくさんの失敗をしていることが分かります。多くの方が「恥ずかしい」、「人には言えない」と照れますが、私と同様、その失敗があるからこそ、今の自分がいるともおっしゃいます。また、その失敗から学んだ、投資を継続する上での唯一無二の秘訣があるとも。やっぱり失敗とは財産ですね。そして勇気を与えてくれるのです。

相撲の世界には九勝六敗という美学があるとも言います。いかがでしょう。

相変わらず景気は不安定で、私たちの暮らしも、なんだかじわじわと元気を失っていくような気がしてなりません。しかし、そんな時こそ、前向きになって、元気を出して行動するべきではないでしょうか。無関心は禁物です。常に世の中の動向をよく観察して、攻めの意識をキープしましょう。

それではまた。

PROFILE

松浦 弥太郎/Yataro Matsuura
2006年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年4月、クックパッド(株)に入社。同年7月に新メディア「くらしのきほん」を立ち上げ、編集長を務める。現在は(株)おいしい健康・共同CEOに就任。
「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。
中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。