「リスクとは何でしょう?」
Text by

松浦 弥太郎

Yataro Matsuura

なさま、こんにちは。

いかがお過ごしでしょうか。秋も一段と深まり、学びの季節の到来です。

さて、お金のことを学んでいくと、必ずつきまとう言葉に「リスク」があります。みなさんは、リスクとは何かを考えたことがありますでしょうか。また、リスクについてどんな印象を持っているでしょうか。

「リスクっていうのは、ギャンブルのようなもので、損をする可能性ってことですよね。だから、できれば避けたい。リスクを回避するのが賢い生き方である。」

こんなふうに思っている方がきっと多いでしょう。しかし、この考え方は、正しいとも言えないのが本当です。

まず、しっかりと認識するべきことがあります。「リスク」とは「ギャンブル」ではありません。「リスク」とは、自分で管理ができることです。増えたり減ったり、良いことや悪いことが起きることを管理できないのが、いわば「ギャンブル」なのです。

もっと踏み込んで言いますと、リスクとは、投資であり、ギャンブルとは、賭けなのです。この勘違いをしてはいけません。

ですので、リスクを回避する人生というのは、ひとつも投資をしない人生であり、以前、ここでお話したように、私たちは、お金だけでなく、時間というライフスタイルも含めて、様々な投資によるリターンによって、よろこびや豊かさを得ています。要するに「何もしない」というリスクくらい無意味なものはないということです。

たとえば、投資の決意をします。投資をするのだから、投資したものが二倍、三倍、いや、十倍、もっと増えてもらいたいという欲望を抱いてしまう。

こんなふうに大きなリターンを求めるから、当然、高いリスクが生じます。高いリスクの管理には、専門家並みの相当な情報量や知識を必要とします。私たちのような消費者が生活や仕事をしながら、そんな高いリスクの管理などできるはずがありません。

しかし、大きなリターンは欲しい。いっちょ賭けてみるか。投資のつもりが、いつの間にか賭けに変わってしまうのです。こういうパターンが実に多い。

私はいつも自分が買い物をする時に、「リスク=投資」という考えを持っています。どうしたらお買い得なものを見つけて、少しでも良いものを買えるのか、それは一体なんなのか、どうやったら買えるのだろう、ということです。

そして、買ったものによる、ささやかなよろこび(あらゆるものの成長)を確かめることで生活を潤したいと思うのです。だからこそ、よく学び、よく考えて、買い物をするのです。ちなみに、買い物の時に「賭け(ギャンブル)」なんて考えたことはありません。

リスクとは、ギャンブルではなく投資である。なぜこんなシンプルなことが分からなかったのでしょう。若い頃、私もそうでした。それは無頓着さと必要以上の欲望のせいだったからだと思います。

これからの時代は、いかにリスクを学び、リスクを楽しむのか。それに尽きるのです。次回はそんなお話をしましょう。

それではまた。

PROFILE

松浦 弥太郎/Yataro Matsuura
2006年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年4月、クックパッド(株)に入社。同年7月に新メディア「くらしのきほん」を立ち上げ、編集長を務める。現在は(株)おいしい健康・共同CEOに就任。
「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。
中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。