豊島さんに聞いてみた! 009 | 2019.02.27
景気の変動を捉えた投資のために持つべき視点
Text by

豊島逸夫×モリジュンヤ

Itsuo Toshima×Junya Mori

分かりやすいアドバイスに定評がある投資の専門家・豊島逸夫氏に、気鋭の若手編集者・モリジュンヤ氏が「投資の難しいこと」を分かりやすく伺っていく本連載。

第9回では、景気の波を捉えながら投資をするために必要な視点の持ち方についての豊島さんからのアドバイスを紹介します。

 

日本や各国の経済動向を掴む

 

 

――投資をする上で景気の波は避けて通れないものかと思います。景気の波というのはどのように掴んだら良いのでしょうか?

ずばり、日米欧の「金利」に注目しましょう。景気が悪くなれば、日銀など金融当局が金利を下げます。彼らが「利下げ」と言い出したら、要注意です。しばらく不景気が続き、やがて利下げの効果で景況感が上向くでしょう。

さらに、円の金利が安くなると、円安になります。円安になると株式高になるので、景気回復のキッカケになります。「利上げ」となれば、この逆になります。円をドルやユーロに置き換えれば、欧米経済の話になります。

――「金利」に注目することで景気の波を捉えられるのですね。ギリシャや日本のように財政赤字がすごいと言われる国はどのように見れば良いのでしょうか?

財政赤字が膨大になっても、借金を払える国と払えない国があります。ギリシャは正直難しい。何せ基幹産業がコルクやオリーブオイルですから。対して、日本は産業基盤がしっかりしています。国民の教育水準も高い。将来的に借金が返済できるだけの「稼ぐ力」が国にあります。

但し、長期的には日本は間違いなく少子高齢化に向かうので、外国人労働者を受け入れるか否かが持続成長への重要なポイントになります。さらに、これまで稼いだ膨大なマネーを海外に投資して、その収益で稼いでいくことも考えられます。

――日本の将来を予測する上で、日本だけを見ていてはいけないのですね。

そうですね。投資の際には島国の視点から脱却して、世界で何が起こっているかのセンサーを磨くことが大事ですよ。

 

 

 

株式は攻めの資産、金(ゴールド)は守りの資産

 

――金利や国の産業基盤、世界の動きを見ると、景気が悪くなることも悲観せずに済みそうです。

そうですね。この先、日本は今の20〜30代がシニアの面倒を見るような役割になっていきます。そういう時代に、どう備えたら良いかもお話しましょう。

――ぜひお願いします。

まず、日本を代表するような企業の株式を長期的に保有すること。地味ですが、優良企業は、少子高齢化も念頭に経営計画を立てていきます。また、金(ゴールド)という選択肢もあります。

金(ゴールド)の価格は短期的には変動しますが、老後まで見据えた長期スパンでは収れんしていきます。希少性のある実物資産ゆえに景気が悪くなると、世界のマネーが金(ゴールド)市場に回帰してくるんです。

株式を攻めの資産とすれば、金(ゴールド)は守りの資産ですね。それらの資産を組み合わせて持つことが大切です。ただ、問題もあります。

――問題というのは?

金(ゴールド)の教科書では、株式が下がると金(ゴールド)が上がると書かれています。そのため、株式が値上がりした時に、割安な金(ゴールド)を購入する。これが効率が良く、望ましい行動なんです。

しかし、実際には、株式が値下がりすると、その損で頭がいっぱいになり心理的余裕がなくなるものです。一方、株式が値上がりして儲かった時には、金(ゴールド)という新たな資産を買う心の余裕ができます。実世界では、理論と現実の行動が必ずしも法則どおりに動かないんですね。

 

 

 

理論に裏付けされた定額積立で将来に備える

 

――理屈は分かっても現実で行動ができないというのは難しい問題ですね…。

そこで積み立てが大事になるんです。積み立てると言っても、ポイントは「定量」ではなく「定額」。つまり毎月10株とか金(ゴールド)10グラムとか一定重量で買い増していくのではなく、毎月3000円というように一定の金額で積み立てていくことです。

それはなぜか。定額、例えば3000円だと、株式や金(ゴールド)の価格が高い月には買える量が少なくなります。逆に、価格が安い月には多く買えます。これを長期間続けていくと、結局割高の株式や金(ゴールド)は少なく、割安の株式や金(ゴールド)は多く貯まっていくのですね。専門的には「ドルコスト平均法」と言われるのですが、そのコスト効率性は数式でも証明されています。投資に王道はありませんから、コツコツと積み立てることが大事なんです。

――「投資に王道はない」というのは忘れないようにしないといけませんね。

はい、非常に大事なポイントです。例えば、今世界中でトランプ相場がどうなるか、正確に読めるプロはいません。何せ、トランプ自身がどうなるか分かっていないのですから。なので、同僚や友人がトランプ相場で大儲けしたからと聞いても、焦る必要はありません。焦って投資をして、儲かるのは業者だけです。

――焦らずに投資をするには、どのようにするのが良いのでしょうか。

今ほど「リスク分散投資」が重要な時はないでしょう。買う時期を分散する。投資対象も分散する。株式、債券、ドル、金(ゴールド)などに分散して、トランプ相場がどうなっても、全天候型で対応できる心構えが最も重要です。金(ゴールド)が有望だからといって、まとめ買いすれば、それは単なる投機で、投資ではありません。

――リスク分散投資の中で、金はどのような役割を担うのでしょう?

金(ゴールド)はインカム(利息・配当金など)を生みませんが、一定の割合を保有しておくと、リーマンショックのような経済危機になった際に、価格が急騰して株式の損失を補ってくれます。かくいう私も、それを体験しました。

2019年から2020年にかけてIMFは世界経済減速・後退を予測しています。このような状況だからこそ、リスク分散の選択肢として金(ゴールド)が浮上するのですね。これが、欧州で「金は嵐の晩に輝く」と言われる所以です。

豊島さんの金言!
“投資に王道はない、定額積立で将来に備えよう”

Illustration : Damien Florebert Cuypers
Artist Management:Agent Hamyak

PROFILE

豊島逸夫
三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され、外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリッヒ、ニューヨークの投資最前線でトレーダーの経験を積んだ後、金の国際機関ワールドゴールドカウンシルに入り、投資事業本部アジア・オセアニア地域担当本部長や日韓地域代表を歴任。金の第一人者となる。
2011年豊島逸夫事務所を設立。独立後は、活動範囲を拡大。自由な立場から、日経マネー、日経ヴェリタス、日経電子版などで、国際金融、マクロ経済評論などを行う。
モリジュンヤ(GOLD PRESS Contributing Editor)
2010年に『greenz.jp』編集部に参加。その後、『THE BRIDGE』『マチノコト』『soar』等メディアブランドの立ち上げに携わり、テクノロジー、ビジネス領域を中心に複数の媒体に寄稿。
「inquire」という編集エージェンシーの経営や、オンライン情報誌「UNLEASH」の編集長、ミレニアル世代向けビジネス誌『AMP』の共同編集長、ライティングを学び合うコミュニティ「sentence」のオーガナイザー、NPO法人soarの副代表理事などを歴任。