「お金を何に変えるのか」
Text by

松浦 弥太郎

Yataro Matsuura

なさま、こんにちは。

いかがお過ごしでしょうか。

残暑が厳しい毎日ですが、これからも暑い夏を元気に乗り切っていきましょう。

前回は、今、お金の価値が変わりつつあるという話をしました。

その意味をざっくりと言い表すならば、子どもの頃によく言われた「まじめにお金を貯めなさい。」という言葉が、今や古い考えになっているということです。

暮らしに困った時に役立たせるためのいくばくかの貯金はあっても良いでしょう。しかし、ただひたすら目的もなく、貯金をし続けるのは、今や時代錯誤と言わざるを得ません。

真面目に働き、わずかな収入の中からこつこつと貯金を何十年も続け、数千万の貯蓄を築いたけれど、人生において、働くことと貯めることしかしてこなかったために、晩年、自由にお金を使える身となった時、意味のある使い方、または価値のあることへの使い方が分からず、あっという間に貯金を失った方を、私は何人も見てきました。

これもひとつの人生かもしれませんが、私が思うにお金の使い方というのは、人の人生において一番むずかしい学びであることが、この教訓から見てとれますし、学問以上に必要な学びであるのではと痛感するのです。

お金を友だちと見立てた時、自分はお金が喜ぶ使い方をできるか、それともお金が悲しむ使い方をしてしまうのか。それはすなわち、自分自身がいかに豊かな人生を味わえるのかを左右する大切な知恵とも言えるでしょう。

お金という友だちを喜ばせるにはどうしたら良いのでしょう。そのためには、お金という友だちがどんな人なのか。その人の状況をよく知り、人一倍詳しくなることが大事であるという話はいつかしたと思います。

さて、今回はこれから先、あなたは何にお金を変えていったら良いのか。あなたは何にお金を使ったら良いのか。どんな使い方をすればお金という友だちが喜ぶのか。そんなとても大切な話をしようと思います。

これは非常にシンプルです。そして、これ以上これ以下でもないお金の活かし方の原理原則であり黄金律ですので、ぜひ身につけていただきたいと思います。

その答えは、あなた自身が「自分の目で確かめたもの」のみにお金を使う。たったこれだけのことです。

「自分の目で確かめたもの」。このことだけを守れば良いのです。私はこの言葉を思うたびに、これほどシンプルで、これほど深いものはないなと嘆息するのです。

私自身、お金の使い方にはたくさんの失敗をしてきました。その失敗を思い返し、原因を突き詰めると分かるのです。そうです、自分の目で確かめていなかった。失敗の理由はたったこれだけのことなのです。

今、私たちの暮らしにおいて、お金の使い方を誘う便利なあれこれが山ほどあります。それはスマートフォンを通じて、インターネットというツールが、有益無益を問わず、たくさんの情報や知識を私たちに届けてくれるのです。今、あなたが読んでいるこの記事もそのひとつです。

メディアやサービスは、精一杯の情報を詰め込んで商品説明をし、動画や写真、または口コミや評価なども含めて、それが確かであることを明らかにし、それに触れた私たちは疑うことなく購買意欲を誘われ、自分の目で確かめずにワンクリックで買い物をするのは、今や日々当たり前のようになっています。これらが日用品の買い物であれば良いのかもしれません。しかし、こういった買い物、いわばお金の使い方に慣れてしまったせいで、特に投資(学びや趣味も含めた)、もしくは浪費(意味のある)において、うっかりワンクリック感覚でお金を使ってしまうことが起き得るのです。実際、私もその経験者です。もちろんそのすべてに後悔するとは限りませんが、残念なことに、焦って自分の目で確かめずにお金を使った時ほど失敗は多いのです。

便利さが増えたおかげで、大切な一手間を省略してしまう傾向に注意が必要なのです。

これからの時代において、私たちはお金を何に変えていけば良いのか。

それは「自分の目で確かめたもの」に変えていく。これだけをしっかり守れば良いのです。

自分の目で見たこと。確かめたこと。分かったことだけを信じる。こんな簡単で分かりきったことが意外とむずかしい時代でもあるのです。

自分の目で確かめた上で失敗することもあるでしょう。しかしその場合はすべて貴重な経験であり学びになります。そこで失ったお金はいわば有意義な授業料。

他人任せにせず、間接的な情報を鵜呑みにせず、どんな些細なことでも自分の目でしっかりと確かめて判断し、その確かめたものへお金を変えていく。このくらいお金が喜ぶ使い方はないのです。

お金をそういうものに変えていけば、お金は喜び、あなたを強く信頼し、あなたの元へと集まってくるでしょう。そしてまたお金はあなたを助けてくれるでしょう。

そんなふうに私は思うのです。

それではまた。

PROFILE

松浦 弥太郎/Yataro Matsuura
2006年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年4月、クックパッド(株)に入社。同年7月に新メディア「くらしのきほん」を立ち上げ、編集長を務める。現在は(株)おいしい健康・共同CEOに就任。
「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。
中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。