「やらないことを決める」
Text by

松浦 弥太郎

Yataro Matsuura

なさま、こんにちは。

余寒がことのほか厳しいこの頃、いかがお過ごしでしょうか。

さて、お金と時間というのは、私たちにとって同じように大切なものだという話を以前しました。お金と時間をどのように使うのか。このことを常に考え、自分なりにしっかりと学び、身につけることで、きっと、あらゆることの不安や問題は解決できると、私は思っています。

お金と時間を上手に使っている人に共通していることがあります。それは、その人なりに「使わない」「やらない」をはっきりと決めていることです。お金と時間の使い方で注意するべきことは、無計画にうっかり使ってしまうことです。

自分なりに「使わない」「やらない」を決めてみる。そうすると、普段、自分が気づかずに使ってしまっていること、やってしまっていることが、きっと思い浮かぶでしょう。これまでは「まあ、いいか」と思って曖昧にしていたようなことが見えてくるはずです。それを一度、紙に書き出してみてはいかがでしょうか。

とは言うものの、私たちは人間ですから、完璧ではありません。「使わない」「やらない」と決めても、使ってしまったり、やってしまったりすることは当然あります。しかし、一度、自分なりに「使わない」「やらない」を意識するだけで、お金と時間の無駄使いは減っていくはずです。

たとえば、ふと一時間くらいの時間が空いて、どうしようかなと思った時、「スマホで遊ばない」と決めていれば、読書をするとか、近くの公園を散歩するとか、誰かに手紙を書くとか、自分なりに価値を感じる有意義な使い方ができるでしょう。それはお金についてもそうですね。「無駄使いと分かっていながら、ついつい買ってしまって、あとで後悔するもの」にはお金を使わないとか。

余裕がない時は、誰でも使い方をしっかり考えますが、ふとお金と時間が、ほんの少しでも余った時に油断が生まれるのです。しかも、お金と時間がふと余る時というのは、実は日常的にちょくちょく起きるのです。それは千円かもしれませんし、三十分かもしれません。しかし、その千円や三十分の無駄使いが、いつの間にか常習化し、塵も積もれば山となると言うように、自分にとっての大きな損失となっていくのです。

ですから、お金と時間の賢い使い方を考えた時、何に使いたいかを考えるよりも、まずは何に使わないかを自分なりに考えたほうが良いのです。そしてまた、自分にとってのしあわせとは、何かを考えることも大切なのです。

たとえばですが、ゴルフはやらない、会食はしない、カラオケはやらない、コンビニ弁当は買わない、スマホのゲームはやらない、パチンコはやらない、他人のSNSを見ない、動画配信を見ない、宝くじを買わない、ボトル入り飲料水を買わない、一気買いをしない、などなど控えるべきことはあれこれとあります。

「使わない」「やらない」は、たくさんなくても良いのです。あまりに堅苦しく厳しくする必要もありません。お金と時間で、それぞれ2、3くらいでしょうか。ぜひ一度、自分なりに書き出してみることをおすすめします。

先日、ある方が私にこんな話をしてくれました。「人生においては魔の手というものが、いつでもどこにでもあるんです。どんなにお金持ちになろうとも、どんなに成功して立場が変わろうとも、魔の手からは逃げられない。どこに行っても、魔の手は必ず自分を見つけてやってくる。その魔の手がいちばん怖いんです。だからこそ、魔の手に注意しないといけないんです。」と。

さて、魔の手とは何でしょう?そのうちのひとつが、ふとお金と時間が余った時の、心の油断だと私は思います。もちろん、もっと深刻で、もっと逃れ難い誘惑のような魔の手もあるでしょう。ふとした時に誤った判断や行動をしてしまうのを魔が差すとも言いますね。

自分なりの「使わない」「やらない」を忘れないでいる。大事なのは、そういった普段の心がけだと思うのです。

それではまた。

PROFILE

松浦 弥太郎/Yataro Matsuura
2006年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年4月、クックパッド(株)に入社。同年7月に新メディア「くらしのきほん」を立ち上げ、編集長を務める。現在は(株)おいしい健康・共同CEOに就任。
「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。
中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。