「今、何が新しいのか?」
Text by

松浦 弥太郎

Yataro Matsuura

なさま、こんにちは。

今年も残り少なくなりました。いかがお過ごしでしょうか。

日々、お忙しいと思いますが、世の中の変化をよく観察し、理解することはとても大切なことです。

世界において、これからどんな変化が起こり得るのか。すでに変化していることは何か。変化とは言わば「新しさ」です。今、何が新しいのか。それを語れるかどうかは、自分のお金を守ることに通じています。「無関心は損をする」という言葉は本当なのです。

今回は、今、何が新しいのかを、少しかいつまんでお話しましょう。 

ラグビーワールドカップにおける日本代表の活躍は記憶に新しいかと思います。数々の試合で観る者を驚かせたのは、これまでの日本代表に欠けていた強靭なフィジカルとアタックに徹底した戦術でした。その実現を担ったのは、外国出身者である代表メンバーの力が大きいことは言うまでもありません。「日本代表なのに、なぜ外国人がいるの?」と眉をひそめる方もいますが、それは愚問。ラグビー協会の規定では、日本に三年以上、継続して居住していれば、代表に選ばれる権利を得ることができるのです。逆のパターンもあります。外国に居住している日本人が、その国の代表に選ばれることも可能です。日本人は、諸外国に比べて人種的な多様性が少ないため、肌の色や髪の色が違う外国人が混ざると一見目立ちますが、フランスやアメリカ、サモア、イタリアといった多くの国の代表メンバーが、外国出身者であるのは今や当たり前。ちなみに現在、約40人いる日本代表には、外国出身者が14名在籍しています。

ラグビーワールドカップでの日本代表の活躍を観戦して強く感じたのは、世界で勝つ、世界に挑む、世界と肩を並べるという意識です。これはビジネスの世界でも同様で、そのためには、会社組織またはそのチームは、多くの優秀な外国出身者と一丸になって歩むのが、すでにスタンダードであるということです。そのような会社でありチームでなければ、世界だけでなく、日本においても存在が危ぶまれる時代はすぐそこまで来ているのです。

であれば、これからは外国語の習得が必須となります。ある知人はこう言います。「まず、英語が話せることは当然として、これからは中国語を習得しないと世界では通用しないだろう。19世紀はイギリスの時代だったが、20世紀はアメリカの時代になった。そして21世紀は中国の時代になっているから。」と。その知人は今、必死になって中国語と、中国の文化を学んでいます。彼にとって今、何が新しいのか。それは「中国の時代」という観点です。また、日本人は、外国に移住して仕事をすることがとても難しいと思いがちですが、まずその思い込みを拭う必要がありますね。

繰り返し言ってきましたが、仕事においても投資においても、成功のコツは決してあきらめないことです。時代がどんなに変化しても、その「新しさ」にいち早く対応し、最初はうまくいかなくて失敗をしてもあきらめないこと。これはラグビーワールドカップの日本代表を見ていたら分かりますね。何度失敗してもあきらめずに、前を向いて、根気強く続けていくこと。とは言え、途中であきらめてやめてしまう理由が必ず現れます。しかし、そうなってもあきらめない人が勝つのです。とにかく継続は力なりなのです。

そしてもうひとつ。世の中の人が今、何にお金を使っているのか。それも大きく変化していますね。これまでは、自分の困っていることを解決してくれる便利なもの、要するに、問題解決に価値を見出して、お金は使われていました。たとえば、CDが売れていたのは、もっと良い音で音楽を聴きたいというニーズに対して、自分の好きな空間で良質な音を聴くことがひとつの問題解決だったのです。しかし、最近はご存知のようにCDが売れない時代です。その代わりにライブは大人気。アーティストもライブ活動に自己投資をしています。今や人々はCDではなくライブに、お金を使う時代なのです。これはなぜか。ライブではアーティストの思いや熱量が伝わってきて、その場にいる人しか体験できない、それこそリアルなライブ感が「楽しい」からです。もはやCDでは楽しくなれない。良質な音かもしれないけれど、そこにはリアリティがない。モノよりコトというのは、昨今言われ続けていることですが、さらにさらに、モノよりコトの時代であることは確かなのです。しかもリアルで「楽しい」コトに。

企業においても、今やモノを売る時代ではないと言われていますね。たとえば、ビジネスの世界では、ブランディングという言葉があり、それは自分(企業やブランド)を好きになってもらうアピールであり、簡単に言うとファン作りでした。しかし、ここでも変化が現れています。今や企業の多くは、暮らしや社会、世界をより良く変えていくための可能性を言語化することをブランディングとして捉え、ビジネスという概念を捨てて、言わば社会活動という名に変えていくような動きさえあります。

最後にとても大切なことをお話します。今、日本は「新しい」のか?という疑問です。みなさんはどのように感じていますか? 

世界に比べ、残念ながら日本は後進国であると認識しても良いでしょう。世界各国の伸び率と比較してみても、日本は10年前からほとんど変わっていません。いや、人々の生活は苦しくなっているかもしれません。世界の成長率ランキングを見ても、アフリカ諸国が上位なように、日本はかなり下位であることも知られていません。

そういった時代の今、暮らしと仕事を守っていくためにはどうしたらいいのか。お金をどんなふうに使っていくのか。何にどんなふうに投資をしていくのか。その自分なりの答えを持つ必要を強く感じる今日この頃です。

今、世界で何が起きているのか。これから何が起きようとしているのか。まずは、しっかりと観察し、理解を深めることが大切なのです。

それではまた。

PROFILE

松浦 弥太郎/Yataro Matsuura
2006年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年4月、クックパッド(株)に入社。同年7月に新メディア「くらしのきほん」を立ち上げ、編集長を務める。現在は(株)おいしい健康・共同CEOに就任。
「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。
中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。