「運を味方にする」
Text by

松浦 弥太郎

Yataro Matsuura

なさま、こんにちは。

穏やかな日ざしにいつしか春の訪れを感じる季節となりました。

さて、この連載では、お金とは何かをよく理解し、お金に好かれるようになるにはどうしたら良いか。そのために必要な知識や考え方をお伝えしています。

お金に好かれるためには、好かれるための習慣と考え方を、賢く身につけることだと、繰り返しお伝えしてきました。

良き習慣と考え方はとても重要です。なぜなら、仕事や運用においては、成功を呼び込む「運」が少なからず必要だからです。

「自分が正しければ、運の力なんていらない。実力があれば良い。運には頼らない。」と思う方もいるかもしれません。しかし、どんなに正しい方法や正しい考え方があっても、「運」は成功に欠かせない要素なのです。決して怪しげな理論ではないのです。

私の知る資産家に成功の理由を聞くと、たった一言「運が良かっただけです。」と答えます。たくさんの学びや努力をした結果であることは、その方のこれまでの実績を知れば良く分かりますが、ただの成功ではなく、群を抜いた成功を得たのは、「運」という味方が働いてくれたからだと言い切ります。

ここで私たちが知るべきことは、その方は、「運」を良くするための習慣や考え方が優れていたということです。よく言う「棚からぼた餅」はあり得ないのです。

それでは、そんな「運」を呼び寄せるためには、どんな習慣や考え方が大切なのでしょう。私が資産家から教わったことや、自分自身の学びで得たことを、いくつかお話しましょう。

まずは、「運」の存在を信じること。そして、「運」には、幸運と不運があることを知り、欲張らずにその両方を受け入れること。常に世の中はバランスという摂理が働いています。良いことがあれば、そうでないことも起きる。だからこそ、良いことをいかに活かすのか、そうでないことにいかに対処するのか、これが幸せのコツになるのです。

「運」を呼び込むための一番の習慣と考え方は、とにかく前向きであることです。何が起きても、すべての事実を、あるがまま起こるがままに受け入れることです。あらゆることを受け入れるというのは、気持ちの問題だけではありません。いつも最悪のケースを想定し、その準備を怠らないことが大切です。

大きな成功には、計画だけではなく「運」という要素も必要。しかし、「運」には幸運と不運があり、それらは自分でコントロールできるものではありません。だからこそ、いつだって不運は起こり得る。これをわきまえ、常に最悪のケースを見越して行動するのが、「運」を味方にする人に共通していることなのです。

何が起きても受け入れ、前向きであること。これは、楽観主義者であれ、ということではありません。楽観主義者に成功者はいないということを知っておきましょう。

ですので、どんなに物事がうまく進んでいたとしても、何が起きても慌てないという準備を怠らないことです。資産家はこう言います。「良い結果ばかりを望んでいたとしたら、成功を手にすることはできなかった。」と。

いつだって幸運も不運も起きる。世の中は決して公平ではないのです。不公平だからこそ、どんな事実でも受け入れることが、幸運への近道なのです。

「何が起きても生きていくためのネタにしてしまえば良いんですよ。病気だって事故だって、いざとなったら仕事のネタにしてしまえば良いんです。」と資産家は笑いながら言いました。

そして、もうひとつ。「運」の良い人はいつもとても忙しい。なぜなら、いくつものプロジェクトを同時にこなしているからです。どんなに成功していても、どんなに資産を手にしていても、「運」の良い人は、いつも何かを始めようと、準備し、学び、行動に移しているのです。

これは、先に話した、最悪のケースをいつも想定して、その準備を怠らないということにもつながりますが、今、成功していることがうまくいかなくなった時の、万が一の保険として、次、そしてまた次、というように、いつも忙しく何かを手掛けているのです。

「運」の悪い人は、「自分にはこれしかない」と、ひとつのことしか手掛けていないから、それが窮地に陥ると「早く次の仕事を見つけなくては……」と慌ててしまいます。

「運」の良い人は、他の身の振り方にひとつも困ることはありません。いつ何によって大成功するかは分かりませんから、いろいろなことを続けていれば、何か良いことが起こる可能性は高いと知っているのです。これは投資におけるポートフォリオ作りにも通じますね。

幸運を引き込むためには、ひとつのゴールに向かって、一直線に進むのではなく、好奇心を失わずに、いろいろな方向からチャンスを伺いながら、行動をジグザグに起こしていくのが良いのです。

私自身、執筆活動だけでなく、会社の経営や、メディア作りや商品開発、コンサルティングなど、常に忙しい日々を送っています。それぞれの仕事の割合と結果は、毎年おもしろいくらいに変化しています。これはまさに投資と似ていると実感します。

忙しい時の対処方法をひとつ教えましょう。やるべきことをリストアップするだけです。私は名刺より少し大きなサイズの白紙のカードをいつも持っていて、そこに予定ややるべきことを順に書き出してあります。一日の中でそのカードを何度も見直すことで、どんなに忙しくてもパニックにならず、そこに書いてあることを、上から淡々とこなせばいいのです。言わば、ひとつ終えるごとにチェックをするTO DOリストですね。

「運」を味方にする習慣や考え方は、まだまだ続きます。

それではまた。

PROFILE

松浦 弥太郎/Yataro Matsuura
2006年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年4月、クックパッド(株)に入社。同年7月に新メディア「くらしのきほん」を立ち上げ、編集長を務める。現在は(株)おいしい健康・共同CEOに就任。
「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。
中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。