世界で最も人気のある投資家といえば、
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株式投資というと、経済学を勉強して難しい数式を読み解けるようになるまでは始められない、という意識を持つ方も多いでしょう。あるいは、一攫千金を狙ってピンときた会社の株式を買うようなギャンブルだと考える方もいるかもしれません。
しかし、稀代の投資家ウォーレン・バフェットは「株式投資は単純明快です」と語ります。
「誠実で有能な経営陣が率いる優れた企業を見つけ、その内在価値より安い価格で株を購入する。そして、永久に保有すればよいのです」(『[新版]バフェットの投資原則』ジャネット・ロウ著 ダイヤモンド社刊 P111、以下同書より引用)
この発言には、バフェットの投資哲学のエッセンスが凝縮されています。
(1)単に優秀なだけでなく、仕事と社会に対して誠実な経営陣がいること
(2)本来の価値よりも低い株価を示している企業の株式を買うこと
(3)その株式を超・長期にわたって保有すること
今回は(1)〜(3)のエッセンスを紐解きながら、バフェットの投資哲学を学んでみましょう。
I. 誠実な経営者が率いる企業
バフェット自身、幾度かの投資判断のミスを犯していますが、もっとも大きなミスのひとつが1987年の米国投資銀行大手(当時)ソロモン・ブラザーズへの出資です。7億ドルを投資して12%の株式を引き受け、取締役に就任しました。そんな同社で91年に国債の不正入札というスキャンダルが発覚し、CEOら経営陣が辞任します。バフェットは暫定CEOとなって、事態の収拾を引き受けました。
このスキャンダルでバフェットは、財務省や証券取引委員会といった米国政府機関、株主、世論から苛烈な追求を受けます。そして、約1年にわたって本意ではない暫定CEOの役目を負うことになり、見事その役をまっとうしました。
「誠実」を英語に訳すと、「integrity」となります。この言葉には「高潔」「清廉」という意味もあります。企業活動の多くは営利を目的としていますが、忘れてはいけないことも多々あるということでしょう。
ただ、バフェットは少し違ったニュアンスの発言も残しています。
「人を雇うときには、誠実さと知性、行動力の三点に着目せよと誰かが言っていた。いくら知的で行動力のある人物でも、誠実でなければダメだと言っていた。そのとおりだと思う。誠実でなくてもいいという人は、愚かな怠け者を雇いたいと言っているようなものだ」(前掲書 P140)
仕事自体に誠実に取り組むことを求めているのです。バフェットは「結果よりも、そこに至る過程のほうが楽しい。もっとも、結果と折り合う術も学びましたがね」という言葉を残していますが、これにはアップルの共同創業者スティーブ・ジョブズの「The journey is the reward.」という言葉を思い起こしますよね。「旅そのものが報酬だ」=「仕事の報酬は、その結果得るもの(金銭や昇進など)ではなく、旅そのもの(仕事の過程)にこそある」に通じます。
II. 割安の株式を買うこと
(2)は「本来の価値よりも低い株価を示している企業の株式を買う」でした。これは、本来価値が1株あたり300ドルの企業の場合、株価が400ドルなら買ってはいけない、50ドルならすぐに買おう、ということです。つまり、素晴らしい企業の株式を割安で買おうという主旨です。そう考えると、300ドルでも買ってはいけないのですね。割安ではありませんから。
バフェットは次のように述べています。
「底値で買わなければだめだということはありません。その企業が持っていると思われる価値よりも株価が安いこと、そして正直で有能な人々によって経営されていることがポイントです。しかし、その企業の今日の価値よりも安く買うことができ、しっかりした経営陣だと確信でき、かつそういう企業数社に投資するのであれば、おそらく利益を得られるでしょう」(前掲書 P23)
であるならば、その「真の価値」を見極めなければいけません。しかし、これはとても難しい作業です。バフェット自身、企業の内在価値を正確に弾き出す公式は存在しないとして、まずはその企業を知ることを奨めています。その企業がどんな活動をしているのか、投資家向けの年次報告書を丹念に読み込むのです。そうした資料には財務会計や簿記の用語も頻繁に登場するでしょう。ですから、企業会計の知識も学ぼうと訴えています。
バフェットがユニークなのは、そういってもなお「事業活動」や「企業会計」の知識と同等かそれ以上に「辛抱強さ」や「冷静さ」が重要だと論じている点にあります。それは、他人の言うことに振り回されて株式の短期売買を繰り返すようではいけない、ということです。事業活動や企業会計の知識も、自分の頭で辛抱強く、冷静に考えるために身につけるものなのです。
心構えが大切なのは理解できましたが、では、実際にどのような企業が「エクセレント・カンパニー(優良企業)」なのでしょうか。バフェットの考えは次の通りです。少し長くなりますが企業と景気のダイナミックな関係がよく分かりますので、すべて引用します。
「企業の業績は、いろいろなことから影響を受けます。しかもそれが来週なのか、来月なのか、はたまた来年なのかは誰にもわかりません。ですが本当に重要なのは、取り組むにふさわしい事業を営んでいるかどうかです。古典的な事例として、コカ・コーラを取り上げてみましょう。
同社が株式を公開したのは1919年、初値は40ドルでした。ところが、その翌年には19ドルに下落しました。第一次世界大戦の後、原料となる砂糖の価格が激変したためです。初値で買った投資家は、1年後には投資額の半分を失ったことになります。
しかし、それにもめげずその株を持ち続け、配当もすべて再投資していたらどうなったでしょうか。その株には今、およそ180万ドルの価値があるはずです。この間には恐慌もありました。戦争もありました。砂糖の価格は上下に大きく変動しました。そのほかにも数え切れないほどの変化がありました。それにもかかわらず、コカ・コーラ株は大きく値上がりしたのです。要するに、大事なのは商品そのものが長期間持ちこたえられるかどうかを考えることです。その銘柄を買うべきか売るべきかを延々と考えるよりも、そちらのほうがはるかに実りが大きいとは思いませんか」(前掲書 P92〜93)
バフェットのこうした考え方は、次項の「超・長期保有」につながっていきます。
III. 超・長期保有
(3)は、買った株式は長期にわたって保有すること、という原則でした。
長期保有の一般的なメリットは「金融・投資用語AtoZ 米国ETFが人気を集める理由」で解説しました。では、バフェットはどのように考えているのでしょうか。
「株式市場は、短期的には人気投票の場にほかなりません。しかし長期的には、企業の真の価値を測る計量器の役目を果たしてくれます」(前掲書 P16)
人気投票ですから、その時々のトレンドや需要に企業の業績や好感度は左右されるでしょう。ですから、5年先の見通しすら危うい企業でも、人気が集中すれば株価は暴騰することになります。そうした企業が何かの拍子で嫌われたら、その企業のセクターやマーケット全体が暴落することがあります。近年ではドットコムバブルがその典型例として挙げられるでしょう。
人気投票ですので、エクセレント・カンパニーであっても不当に低く評価されることもあります。でも、真に価値ある企業であれば、長期的には必ず成長すると考えるのがバフェットです。ですから、割安な時に買って長く保有するのです。バフェットは市場を寡占するほどの極めて強いブランド力を持つ会社を好みますが、それもエクセレント・カンパニーであれば多少の浮き沈みはあっても必ず成長し続けると考えてのことです。先のコカ・コーラの例がそうですよね。
最後に、バフェットの投資哲学をおさらいしましょう。
IV. まとめ1 “誠実で有能な経営陣が率いる企業を見つけよう”2 “本来の価値よりも低い株価を示している企業を探そう”3 “そうした企業の株式を買ったら、
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文: 冨田秀継
Words: Hidetsugu Tomita
イラスト: 森千章
Illustration: Chiaki Mori