分かりやすいアドバイスに定評がある投資の専門家・豊島逸夫氏に、気鋭の若手編集者・モリジュンヤ氏が「投資の難しいこと」を分かりやすく聞いていく本連載。
第1回は、投資に関心はあるけれど、何から始めたらいいのか分からないという方に向けた、豊島さんからのアドバイスを紹介します。 投資によって得られるリターンは「お金を儲けることだけではない」と語る豊島さんに話を伺いました。
投資は焦って始めたら負け |
――若い人や初心者から「投資を始めようか迷ってます」と相談されたら、豊島さんはどうアドバイスされますか?
まず、「焦って始めないように」と伝えますね。投資を始めようか迷うきっかけが、例えば、知人が株式で儲けたことが分かったからだとします。
――始めるきっかけとしては悪くないような気もしますが、そうではないと。
これまで投資に関心もなかったし、経験もなかった人が「乗り遅れてしまった」「何か始めたほうがいいのかも」という不安から、慌てて始めても何も良いことはありません。慌てていると、いきなり大金をつぎ込んだりしやすいですから。
――慌てて始めないように、まずは勉強などしたほうがいいのでしょうか?
これが難しいのですが、投資は勉強しても分からないんです。スイス銀行でトレーダーをしていた時期があるのですが、日本の銀行はマニュアルを覚えるのに対して、スイス銀行は徒弟制度。私の上司が、初日に「この1億円を1日運用してみろ」とかいってくるんですよ(笑)。
――初日に現場へ放り込まれて、1億円を運用するのを想像するだけで胃が痛いですね…。
その上司が教えてくれたのは、投資は「損した時にどれだけ精神的な落ち着きを維持できるか」が重要ということ。これは体で覚えていくしかないんです。理屈ではなくね。
――投資は体験しないと分からないけれど、慌てて始めるのは避けたほうがいい、と。
そうですね。だから、「じっくり始めること」が大事なんですよ。じっくりと始めれば、リスクも少ないし、いろんなことを学ぶことができます。
少額の投資は自己投資でもある |
――投資を「じっくり始める」には、具体的にどうしたらいいのでしょうか?
私は「かけ湯」的に小さく始めることをおすすめしていますね。
――「かけ湯」ですか。
月3000~4000円で始められる積立投資というものが登場しています。貯金するような感覚で、株式や金(ゴールド)に投資していくことができるんです。このような少額から積立していく投資のことを「かけ湯」と表現しています。
――飲み会に1回参加するくらいの値段ですね。
そうなんです。だから、女性におすすめするときは「月に1回女子会を我慢して、節約したお金3000~4000円を投資にあててみませんか」とお伝えしたりしています。
――投資と聞くと、まとまったお金が必要なイメージがありますが、そうとも限らないんですね。
実は少額から始められるんですよ。だから、まずはコツコツとでもいいから始めてみる。いきなり、「熱いお湯=市場」に入るのではなく、「かけ湯=積立投資」をして体を温度に慣らしていくんです。
――コツコツと少額から始められるのであれば、投資のハードルは下がりそうですね。一方で、少額の投資では金銭的なリターンを生む、といったことは難しいように思います。
金銭的なリターン以上に、得るものがありますよ。人の欲求は不思議なもので、少額でも投資を行うと、損をしないようにと思っていろいろ調べるようになります。
――始めることで、視野が広がる。
例えば、月3000円でも投資を始めてみると、これまでワイドショーしか見ていなかった人が、急に国際ニュースを見始める。新聞の経済面も見るようになったりしますね。
――飲み会1回分の金額を投資することが、学ぶ習慣の獲得にもつながるということですね。
経済だけではなく、投資によって得られた国際的な感覚は、必ず役に立ちますよ。特に若い人にとって、転職した時、違う部署に異動した時、思わぬところで知識として活きてきます。もしかしたら、お金を儲けるよりも重要なことかもしれません。
――投資を始めることは、お金を儲けること以上の価値があると。
お金を儲けるのは、あくまで手段です。自分の目標を達成するためにお金が必要なのだから、何のために投資をするかをまず考えて欲しい。その上で、小さく実践してみて、少しずつ知識を蓄えることができたら、1年で見える景色が変わってきます。
――少額の投資は、自己投資にもつながるのですね。
人間は「儲けたい」という欲からは逃れられません。だから、欲のエネルギーを良い方向に向ける。欲のエネルギーを知識の獲得に向けられたなら、投資が勉強につながるわけです。
――最後に、これから投資を始める人に向けてメッセージをお願いできますか。
投資と言われたら、一攫千金を狙う「肉食系」なイメージが強いかもしれないですが、安易に信じないで欲しい。飲み会や女子会1回分の金額を積み立てる「草食系」投資から始めてみてください。
豊島さんの金言!
“一攫千金を狙う、肉食投資ではなく、あなたらしい草食投資で視野を広げよう”
Illustration : Damien Florebert Cuypers
Artist Management:Agent Hamyak