「投資」先の選び方
Text by

松浦 弥太郎

Yataro Matsuura

なさま、こんにちは。

前回、「投資」とは、お金儲けでもなく、ギャンブルでもなく、自分の持っているお金を増やすための、賢い使いみちのひとつ。そしてまた、自分自身への栄養補給だとお伝えしました。

いかがでしょうか。あなたは今日、「投資」という意識で何か行動してみましたか? つい先日、この欄を読んだという私の知人から、はじめて「投資」をしてみたと連絡がありました。

「こんにちは。お久しぶりです。コラムを読んで、これまで二の足を踏んでいたのですが、早速、僕も投資をしようと思い、行動に移しました。自分への投資と金融商品の投資です。どちらも少額ですが、万が一、無くなっても困らない金額の範囲を考えて、良いリターンを期待しての初投資でした」。

知人がどんな対象もしくは価値に「投資」をしたのかは分かりませんが、きっと彼なりに成長を期待できる何かに「投資」をしたのでしょう。私は、彼が自分への投資として、どんな「投資」をしたのかとても興味が湧きました。旅行かもしれませんし、習い事かもしれません。もしかしたら起業したのかもしれません。

私自身、人生最初の「投資」は、今思えば十代の終わりにアメリカを旅したことでした。当時は「投資」という意識はありませんでしたが、この旅で自分を大きく成長させよう。旅の経験が自分を変えてくれるだろう、という気持ちを抱きました。この気持ちは「投資」そのものといえるでしょう。実をいうと、この「投資」は今でも続いているのです。

ある日、人生の先輩がこういいました。「投資は長期で積み立てるように行うのが一番良い」と。

その通りです。「投資」にコツがあるならば、長く、コツコツ、じっくりと行うことなのです。あとは、知人がいうように、無くなったとしても困らない金額の範囲で。このことも大切です。

知人からこんな質問もありました。

「金融商品の「投資」をするにあたって、今回、投資先をどう選んだら良いのか悩みました。もし良かったら教えてください」。

私はこう答えました。

「この質問は、「投資」をはじめた人なら、誰もがしたくなる質問ですね。私も最初はそうでした。「投資」の長けた人なら、絶対に損をしない「投資」先を知っていると思ったからです。けれども、「投資」先のもっとも間違いのない選び方は、自分が一番詳しいもの、もしくは自分が大好きなものへの「投資」が良いのです。私が選んでいる「投資」先は、私自身が詳しくて、大好きだからこそ選んでいるのです」。

答えは続きます。

「詳しいからこそ。大好きだからこそ。その「投資」先が、これからどんなふうに変化していくのか、成長していくのか、何が起こるのか。100%ではありませんが、かなりの確率で予測がつきます。なぜなら、詳しくて、大好きだから、日々そのために必要な情報を無意識的に収集し、楽しみながら観察もしているからです」。

誰でもひとつやふたつは、すごーく詳しいことがあるでしょう。もしくは、誰よりも好きなものがあるでしょう。そのものずばりを「投資」先に選ぶと良いのです。そして、「投資」をはじめたら、気長に、コツコツと、じっくり、途中で辞めずに「投資」を続けることです。

ここで一度振り返ってみると、良く分かることがあります。一番詳しくて、大好きなものとは、まずは「自分」が思い浮かぶはずです。いやいや、自分で自分が大好きなんて気持ちはありません、という方もいるかと思いますが、一番詳しいことには間違いないはずです。

ですので、自分という「投資」先を忘れてはいけないのです。旅行、読書、学び、交遊、趣味といった、自分が成長するための「投資」からはじめる。そして次に、金融商品という「投資」先を選んでみるのも良いでしょう。

「投資」の良いところは、万が一、失敗して損をしたとしても、その体験から必ずたくさんの学びがあることです。

余談ですが、私の知る投資家のみなさんに共通していることがあります。それは、「投資」による失敗を必ず経験していて、その失敗を大きな学びにしていることです。

ためしに「投資」先を自分と考えて、失敗したことをイメージしてみてください。失敗は成功の母、という言葉を思い出しませんか?そうです。次はきっと成功するんです。

それではまた。

PROFILE

松浦 弥太郎/Yataro Matsuura
2006年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年4月、クックパッド(株)に入社。同年7月に新メディア「くらしのきほん」を立ち上げ、編集長を務める。現在は(株)おいしい健康・共同CEOに就任。
「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。
中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。