「一億円あったら何に使う?」
Text by

松浦 弥太郎

Yataro Matsuura

なさま、こんにちは。

いかがお過ごしでしょうか。

あっという間に年末がやってきて、仕事と暮らしにおいて、あれもこれもと慌ただしい日々ですね。私はと言うと、そんな時こそ、できる限りリラックスするよう心がけている今日この頃です。

前回はリスクとは何かとお話しました。リスクを、避けるべきマイナスイメージと捉えるのではなく、無限に広がるプラスであると考えた生き方が大切。けれどもしっかり管理をしていきましょう。

まずは、こんなふうに意識を変えるだけで、いろいろなことの見え方、感じ方、学び方、判断の仕方が良いほうに変化するのです。

つい先日、ニューヨークのタウン誌「ニューヨーカー」を読んでいたら、おもしろい読み物がありました。

それは、将来お金持ちになることを夢見た若い二人の女性が、ニューヨークの街を散歩しながら「一億円あったら何に使う?」というおしゃべりをする内容で、一人はまずこう言うのです。

「寒い冬のために、あったかいカシミヤのセーターを買うわ。」するともう一人が「私はムートンのジャケットが欲しい。」と言いました。一億円あるのだからと、もっともっとと欲しいものを挙げていき、結局二人は「ミンクの毛皮のコートが欲しい。」となりました。さらに二人は散歩しながら欲しいものをあれこれと言い合っていきます

二人はある宝石店の前で足を止めました。ウインドウに飾られたダイヤモンドのネックレスを見つけたのです。

「これが欲しいわ。」、「私もこれを買いたい。」と、二人の意見は一致し、そのネックレスがいくらなのかを知りたくて店に入って値段を聞きました。そのネックレスはなんと二千五百万円でした。

二人は目を合わせて肩を落としました。そしてこう言ったのです。「一億円じゃ全然足りないわ。」最初は楽しかったおしゃべりでしたが、最後はなんだか暗い気持ちになって、二人は家路に着いたのでした。

とても都会的で、おもしろい読み物でした。しかしここで感じたのは、人の欲望とは果てしなく、もっともっとと欲を出せば出すほど、どこかで必ず現実を知るというか、自分自身の欲望のむなしさに突き当たるのです。

みなさんとひとつ目線を合わせておきたいことがあります。

投資においてはリターンを決して高望みしてはならないことです。せっかく投資をするならば、どうしても二倍、三倍になって欲しいと誰もが思いがちですが、この世界において、そんな虫のいい話はありません。そう簡単にお金を増やせるはずがないのです。あったとしたら、それは怪しい話に違いありません。

一般的に年利のリターンが5%なら上出来というか、その投資はとても成功であると言えるでしょう。まれに10%のリターンがあるかもしれませんが、複利で計算すると、10年で元本は二倍以上!になります。どうでしょう?ありえないですよね。まあ、実際、10%以上のリターンを出している投資商品は確かにありますが、その場合のリスクは、許容範囲を超えるもので、いわば「ギャンブル」です。

ここでおさらいをしましょう。「リスク」とは、自分でしっかり管理ができること。増えたり減ったり、良いことや悪いことが起きることを管理できないのは「ギャンブル」なのです。

投資において欲は禁物。投資とは、増やしたり減らしたりを楽しむことではありません。5年、10年の安定したリターンを得るにはなおさらのこと。リスクの学び方、楽しみ方とは、この言葉に尽きるのです。

それではまた。

PROFILE

松浦 弥太郎/Yataro Matsuura
2006年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年4月、クックパッド(株)に入社。同年7月に新メディア「くらしのきほん」を立ち上げ、編集長を務める。現在は(株)おいしい健康・共同CEOに就任。
「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。
中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。