「利益とは何かをヒントに」
Text by

松浦 弥太郎

Yataro Matsuura

なさま、こんにちは。

3月に入り、日差しもすっかりやわらかくなりました。さて、お仕事は順調でしょうか。決して良いとはいえない不安定な景気の今、いかに生き抜いていくのか。今回は、お金と仕事のお話をしたいと思います。

儲かる、儲からないという話をよくすると思いますが、そこにはどんな本質があるのでしょう。たとえば、なぜあの人はこんなに儲かっているのか。それは単に所属している会社の規模が大きかったり、高いポジションであったりするからでしょうか。

その理由は人であろうと会社であろうと店舗であろうと、共通する原理原則が存在しているからです。

儲かるというのを、一旦、利益とします。利益とは何から生まれてくるのかを考えましょう。利益はどこからやってくるのか。これはとても大切なことです。良かったら、目をつむって、そのイメージをじっくりと考えてみてください。利益の源流を探ってみてください。見えますでしょうか?

利益の本質を明確に答えるのは、なかなか難しいですね。けれども、シンプルに考えてみれば良いのです。あなたはどんな時に喜んでお金を払おうとしますか?何に期待してお金を払いますか?答えはそこにあるのです。

利益の本質。それは「感動」です。

私はこのように考えます。利益とは、感動した人の数に比例するもの。利益が多いということは、それだけたくさんの人に感動を届けたということで、利益が少ないということは、感動を届けた人の数が少なかったということです。

要するに、儲かったというのは、それだけたくさんの人数に感動を与えた結果なのです。どのような業種の仕事においても、その先には必ず生身の人がいて、最終的にその人が何かを得て感動することで、その仕事は成立しています。その人数が鍵なのです。

たくさん儲けたい。ほとんどの人がそう思うでしょう。それならどうしたら良いのか。答えはシンプルです。たくさんの人が感動する何かを売れば良いのです。ただ、たくさんの人が感動するものは、そう簡単には見つかるものではありません。それを考え出すのに世の中の多くの経営者は苦労しているのです。

ここで自覚をするべきことは、自分はどのくらいの数の人を対象とする仕事をするのかということです。たくさん儲ける仕事が正しくて、少ない儲けの仕事が正しくないということではありません。それは個人それぞれのヴィジョンなのですから。

たくさん儲けるということは、それだけたくさんの人と対峙することですから、たくさんの責任が生じ、その仕事を維持していくには、たくさんの従業員やきちんとした環境が必要でしょう。また、たくさんの儲けがなくても、健全な仕事なり、経営というのはありえます。なぜなら、感動というのは非常に多様性があるからです。一万人の人が感動する価値があれば、百人の人だけが感動する価値があるように。

ここで私たちが一緒に学びたいのは、世界中の人の日々のお金の使い道というのは、少なくとも「感動」という価値に対するもの、もしくはその期待によるものだということです。

世界で活躍するアスリートの何億円にもなる報酬は、私たち一般人にとって、一見そのあまりの大きさが、なぜだか理解できない金額だったりします。しかし、よく考えてみれば分かります。世界という広く大きな規模で、一流のアスリートは自分のプレイによって、それだけたくさんの人に「感動」を与えているからなのです。そうです、「感動」の数の多さなのです。

この学びを、ぜひ、投資という視点で考えてみましょう。単純明快で、不変の「感動」という価値を持ち続ける投資対象とは何か。

なかなかのヒントではないでしょうか。

それではまた。

PROFILE

松浦 弥太郎/Yataro Matsuura
2006年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年4月、クックパッド(株)に入社。同年7月に新メディア「くらしのきほん」を立ち上げ、編集長を務める。現在は(株)おいしい健康・共同CEOに就任。
「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。
中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。