豊島さんに聞いてみた! 010 | 2019.03.28
かしこい金投資には、資産としての特徴を捉えて
Text by

豊島逸夫×モリジュンヤ

Itsuo Toshima×Junya Mori

分かりやすいアドバイスに定評がある投資の専門家・豊島逸夫氏に、気鋭の若手編集者・モリジュンヤ氏が「投資の難しいこと」を分かりやすく伺っていく本連載。

第10回では、金投資に必要な知識についての豊島さんからのアドバイスを紹介します。

 

プラチナを知ると金が分かる

 

 

――今回は、実物投資の中でも貴金属についてお伺いしていけたらと思います。金以外にも「プラチナ」を耳にすることがありますが、プラチナについてお伺いできますか?

金と同じ貴金属というカテゴリには、シスターメタルとしてプラチナがあります。私のところにはプラチナに関する質問もよく届きます。

現在プラチナは金より安く、平均で4割以上は安価です。プラチナチケットと言われるように「プラチナは高い」というイメージを持つ方も多いので、安いならプラチナを買うという人もいますね。

――金(ゴールド)とプラチナの違いはどういったものになるのでしょうか?

違いはいくつかありますね。まず、金にはマネー(通貨)とコモディティ(商品)と2つの側面があります。金は外貨準備として所持する国も多く、通貨としての顔もありますが、商品としての顔もあります。一方で、プラチナはマネーとしての側面はなく、産業用素材と宝飾素材というコモディティのみです。

――プラチナはコモディティのみなんですね。

そうです。例えば、自動車の排気ガスを綺麗にする浄化触媒や燃料電池に使われ、エコなメタルとも言われています。自動車以外の精密機械に活用される場合もありますが、自動車産業の変化の影響は受けます。

ただ、プラチナは生産量が金の20分の1と言われており、金よりもさらに希少です。プラチナの宝飾品には、 プレミアムなジュエリーというイメージが強く、 この感覚は将来も残るでしょう。

――金とプラチナは値動きにも違いはあるのでしょうか。

違いますね。「プラチナを知ると金が分かる」と言われています。景気が後退すると、プラチナの価格は下がります。金は景気の良い時に売られ、経済危機の時などに買われます。なぜなら、マネーとしての顔があるから。不景気の時の値動きを見ていると、金のマネーとコモディティの二面性が理解できますよ。

 

 

 

金にいくら、どのように投資するか

 

――金に投資するとしたら、どの程度の金額を投資するのがいいのでしょうか?

私が以前勤めていたスイス銀行では財産の10%を金に投資していました。私は、日本人にはまず5%程度を目途に金に投資するのが良いと説いています。資金的に余裕があれば10%でも良いと思います。

「儲かりそうだから」といって金に資産の半分を投資する人もいますが、分散運用の原則からいって、ひとつの対象に半分もの資産を向けるのは博打です。

金は再生産、再投資されないので、持っているだけでは何も産まない資産です。金をあまりにも多く投資するのは単なる投機になってしまいます。

――金に投資するのは資産のうち5%程度だとして、投資の仕方はどうするのが良いのでしょうか。

今、株式の世界では積み立てがブームですが、実は積み立ては金が元祖なんです。1980年代から積立投資が行われています。金への投資というのは、短期的な価格変動があり、プロでも値動きは掴みにくい。

時間軸で分散させて、毎月定額で買っていくのがおすすめです。まとめ買いはしない。先物買いもおすすめできません、あまりにもリスクが高い「博打」だからです。

博打をせずに、積み立てで金を買っておく。そうすると、不況の時期に活躍してくれます。私も、10%分の資産を金にしていたことで、リーマンショック時の損失を7割ほどカバーできました。

 

 

 

金の「売り」には2つのパターンがある

 

――金を「売る」ポイントは、どのようなものがあるのでしょうか?

金を売るという行為は大きく分けて2つです。「宝飾品としての金を売る」「資産として持っている金を売る」ですね。

まず、宝飾品としての金を売るについて。金を宝飾品として買い取る事業者は、金の品位が分かるだけではなく、ダイヤモンドやルビーの鑑定スキルも必要な場合があります。ですが、この鑑定が怪しいことが多いんです。ダイヤモンドなどは鑑定士の主観によって値段が決まってしまうことが多いので、あまり資産に向いていません。

一方で、金は違います。金は銀行間の取引で公明正大に相場が決まっていて、個人の主観が入らない。品質も価格も標準化されている、一物一価です。なので、売却価格が明瞭に決められるのは、金やプラチナです。

ただ、気をつけたいのは、金の買い取りは怪しい業者が多いということ。くれぐれも信用のできる買取業者を選ぶことが大事なんです。

――もうひとつが、資産としての金を売る、ですか。

資産運用における金はいつでも売れます。買取価格と販売価格があって、海外旅行用のドル札の買値と売値の考え方と同じですね。買値と売値の差があり、これが事業者の儲けになります。気をつけておきたいのは、消費税がかかること。販売価格のみならず、買取価格にも消費税が上乗せされます。 ですから、今後消費税率が上がると、買取価格も上がることになります。

そのため、現在の消費税率で買って、消費税率が上がった時に売ると儲かるかもということが話題になっています。 ですが、手数料がかかっているため、上がった消費税分がそのまま儲けになるわけではありません。10〜20年の間で金を持つつもりなら、そういう買い方もありえますが、数年単位では金の値動きの方が消費税率上昇分を上回る可能性も高いので、おすすめできません。

金の資産としての性質、買い方や売り方を理解した上で投資をしていきましょう。

豊島さんの金言!
“金には「マネー」と「コモディティ」の2つの側面がある。資産の5%程度を金で積立投資しよう。”

Illustration : Damien Florebert Cuypers
Artist Management:Agent Hamyak

PROFILE

豊島逸夫
三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され、外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリッヒ、ニューヨークの投資最前線でトレーダーの経験を積んだ後、金の国際機関ワールドゴールドカウンシルに入り、投資事業本部アジア・オセアニア地域担当本部長や日韓地域代表を歴任。金の第一人者となる。
2011年豊島逸夫事務所を設立。独立後は、活動範囲を拡大。自由な立場から、日経マネー、日経ヴェリタス、日経電子版などで、国際金融、マクロ経済評論などを行う。
モリジュンヤ(GOLD PRESS Contributing Editor)
2010年に『greenz.jp』編集部に参加。その後、『THE BRIDGE』『マチノコト』『soar』等メディアブランドの立ち上げに携わり、テクノロジー、ビジネス領域を中心に複数の媒体に寄稿。
「inquire」という編集エージェンシーの経営や、オンライン情報誌「UNLEASH」の編集長、ミレニアル世代向けビジネス誌『AMP』の共同編集長、ライティングを学び合うコミュニティ「sentence」のオーガナイザー、NPO法人soarの副代表理事などを歴任。