「よほどの理由」
Text by

松浦 弥太郎

Yataro Matsuura

なさま、こんにちは。

お元気でしょうか。新型コロナウイルスと向き合った日常は、まだまだ続きそうです。これから先、様々な不便も増えていきますが、私は、これもひとつの良き経験、良き学びとして捉えて、ポジティブに過ごしていこうと思っています。

みなさんは、新聞やテレビなどから、日々ニュースを読んだり見たりしていると思いますが、多くの場合、そこに書かれているタイトルや写真、映像などをぱっと見て、その事象を結果として捉えて、ひとつの情報としてインプットしているかと思います。

たとえば、「美しい京都」というニュースを見た時、「美しい」という事象を受け取り、普通は「はい、美しいよね」と、せいぜい共感して終わりです。けれども、ある人は違う受け取り方をします。「美しい」には「よほどの理由」があるんだろうなあ。その理由は何だろうと考えてみる。そうすると、「水も山も木も花も人の心意気も美しい京都」というように具体的な理解ができる。

というのは、先日、久しぶりに会って話した経営者の友人が「新聞に書かれている記事はすべて結果だけど、その結果には、すべて『よほどの理由』があるんですよね。その『よほどの理由』まで考えるかどうかは、情報分析として大きな差が出ますよ。」と話してくれました。

私はその「よほどの理由」という言葉を聞いた時、はっとしました。「よほどの理由」まで考える。これからの私たちにとって、これはとても必要な思考ではないかと感じたのです。

ここで整理したいことがあります。それは、理由と原因の違いです。私は最初、「よほどの理由」とは、単に「よほどの原因」ではないかと疑問を抱いたからです。

違いを簡単に言うと、原因とは、結果としてそうなった基のこと。理由というのは、結果としてそうなった事情のこと。原因は事柄。そして理由は動機と言っても良いでしょう。

ですので、この社会で起きた結果においては、表に出てこない「よほどの理由」という、非常に人間味のある動機が作用していることが多いのではないかと私は思うのです。うーむ。

とは言え、原因は明らかにされても、動機という「よほどの理由」まで究明されることはほとんどありません。まあ、分かりづらいという、ここにも「よほどの理由」がありますから(笑)。

特に理不尽なことや違和感があることなど、たとえば、会社経営などを見ていても、どうしてこういう意思決定をしたのだろうと理解できない場合があります。人事についても多いですね。投資や支出についても同様ですが、経営者の友人いわく、必ずそこには「よほどの理由」がある。その「よほどの理由」を、周辺情報を調べてパズルのように組み立てて、あたかも推理をするように究明分析する。それがおもしろいと。

せめて、どんなことにも「よほどの理由」があると考えてみるのはいかがでしょう。そうすると、正しい、正しくないという答えを超越したアングルで物事を見るようになり、また、冷静に物事を受け取ることできて、人間本来のおもしろさが垣間見えて、自分自身の情報分析に深みが増してくるでしょう。

人間関係でも「よほどの理由」が役に立ちます。ストレスを感じることでも相手に対し、「よほどの理由」があると思えば、気持ちは楽になりますね。

「よほどの理由」を考える。そういうふうに社会を見る意識は、仕事や投資のヒントにもなるかと思います。そしてまた、自分自身のお金の使い方や、日々の意思決定、様々な選択などの「よほどの理由」と一度向き合ってみるのも学びのひとつです。

何はともあれ、どんなことにも「よほどの理由」がある。そう意識するだけで、ちょっと心が広くなりそうです。「よほど」というのが、学びの切り口なのです。

話変わって現在は、なかなかお金を動かしにくい状況でもありますね。しかし、利益追求ではない、お金の使いみちというのも、私は大いにありだと思っています。今こそ、自分が楽しいと思うことやおもしろいと思うこと、感性を磨くことにお金を使う。それらはきっと、将来的に何かしらのかたちで成果が出るはずです。

また、食を身体の健康への投資と考えて、どんな食べ物を、どうやって食べるのかを考えてみる。今日の食事は一年後の自分の健康に表れるとも言います。そのためにお金を使うのも良いですね。

これからは自分自身の価値を高めるためにお金を使う。言わば、自己投資の選択肢をいくつ持てるのか、そしてその学びに取り組む。それこそがコロナ時代のキーワードだと思います。

それではまた。

PROFILE

松浦 弥太郎/Yataro Matsuura
2006年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年4月、クックパッド(株)に入社。同年7月に新メディア「くらしのきほん」を立ち上げ、編集長を務める。現在は(株)おいしい健康・共同CEOに就任。
「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。
中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。