自分年金作りの際に参考にしたいのが「コア・サテライト戦略」。
年金運用の世界に革命をもたらしたと言われる 今、注目の運用方法です。
「年金2000万円不足問題」が大きな反響を呼んだ2019年は、奇しくも、公的年金制度の5年に1度の見直しの年に当たります。
見直しを踏まえた制度の改正案には「年金の受給開始年齢を75歳まで繰り下げられるようにし、75歳まで繰り下げた場合、65歳受給開始時の年金額の2倍を支給する」、「60歳以降も厚生年金に加入しながら働いている人の在職老齢年金の制度を廃止あるいは縮小する」といった内容が盛り込まれるようです。
前編ではこうした制度改正の具体的な中身について解説しました。
現政権は「生涯現役社会」を公約のひとつに掲げており、できるだけ長く働きたいという方にとっては大きく背中を押してくれる改正と言えます。一方で、定年後は仕事にとらわれない生き方をしたいと考えている方の場合、改正メリットにはあまり期待できません。 自分らしい老後を過ごすためにはやはり、現役時代から国に頼らない「自分年金」を準備しておく必要がありそうです。そこでこの後編では、効率的な自分年金の作り方についてお話していきましょう。
つみたてNISAやiDeCoは節税効果大
自分年金作りは10年、20年と長期に渡るだけに、税制優遇措置のある「つみたてNISA」や「個人型確定拠出年金(iDeCo)」の“節税効果”は侮れません(図Ⅰ)。iDeCoは勤務先で企業型確定拠出年金(DC)に加入している会社員の方だと原則利用できませんが、この8月には厚生労働省がiDeCoとDCの併用を可能にする方向で検討に入ったという報道がありました。
(図Ⅰ)
こうした制度の活用を前提に、自分年金作りの参考にしたいのが、今、投資の世界で注目を集めている「コア・サテライト戦略」です。
コア・サテライト戦略は分散投資の一種で、資産をコア(中核)とサテライト(衛星)の2つに分けて考える運用方法を指します。日本では1990年代から年金の世界に導入され「年金運用に革命をもたらした」と言われました。
年金資金は長期的な視点からリスクを抑えつつ、目標リターンを達成していかなければなりません。その際、コアだけでなくサテライトを組み合わせることで、コアの資産が値下がりしてしまった時にサテライトの値上がり分でカバーしたり、コアの収益をさらに上積みしたりすることが可能になるのです。
個人の自分年金作りも同じことが言え、年金で成功を収めたこの手法をうまく取り入れていきたいところです。
コア・サテライト戦略の中心となるのは文字通り、コアの資産です。長期保有を前提に、リスクを抑えて安定した収益を得られるような株式ファンドを選びます。片やサテライトは、コアを取り囲む小さな衛星のようなイメージです(図版Ⅱ)。サテライトには①長期的にコアのリスクヘッジを行うものと、②リスクを取って高いリターンを狙うものとがあり、②では特定分野に集中した運用や、相場変動に乗じる形で利ざやを稼いでいきます。
(図Ⅱ)
サテライトに適した純金積立、REIT
自分年金のポートフォリオを考える場合、コアの部分にはインデックスファンドやETF(上場投資信託)、バランス型ファンドなどを据えるといいでしょう。前出のつみたてNISAやiDeCoの口座を使えば、長期に渡って税制の優遇措置が受けられます。
一方、サテライトにはコアと異なる値動きをする金融商品を選ぶのがポイントです。具体的には、先の①なら純金積立やREIT(不動産投資信託)などが挙げられます。②のリスクを取った運用を考えるなら、新興国ファンドやテーマ型ファンドなどを加えても良いでしょう。
30~50代であれば、運用資金に占めるコアとサテライトの比率は7対3が目安となります。毎月の積立額が5万円だとすれば、3万5000円をインデックスファンド、1万5000円を純金積立などに振り分けるイメージです。
基本は“長期保有”ですから、相場動向に合わせて頻繁にポートフォリオを変える必要はありません。とは言え、年に1度はコアとサテライトそれぞれの残高を確認し、リバランス(資産配分を当初の計画通りに修正すること)を行うと良いでしょう。
積立投資にこうした「コア」「サテライト」という視点を加えることで、より戦略的かつ効率的な自分年金作りが可能になります。運用に興味をお持ちの方なら、ご自分がファンドマネジャーになったつもりでポートフォリオを組んでみても面白いかもしれません。
Ⅲ. まとめ
Ⅰ.つみたてNISAやiDeCoは自分年金作りに有効
Ⅱ.資産をコアとサテライトに分け、効率的に積み立てる
Ⅲ.サテライトにはコアと値動きが異なる純金積立などを
Text : 森田聡子
Illustration : ミツミマリ
Infographics:宮井智恵子