豊島さんに聞いてみた! 003 | 2018.07.30
いろんな対象に分散投資することで、
国際経済の動きも学べる。
Text by

豊島逸夫×モリジュンヤ

Itsuo Toshima×Junya Mori

投資の専門家・豊島逸夫氏に、気鋭の若手編集者・モリジュンヤ氏が「投資の難しいこと」を伺っていく本連載。

第3回では、金(ゴールド)や不動産といった「実物資産」の解説から、分散して投資を始めることの必要性や、そこから得られるメリットについて学んでいきます。

 

 

分散して投資することで、体で理解する

 

 

――初心者は、何に投資すべきか分からない方も多いと思います。豊島さんは、そんな人にどのようにアドバイスをされていますか?

ひとつの対象にだけ投資するのではなく、いくつかの対象に分けて投資することをおすすめしています。例えば、月ごとに別のものへ投資する、というように。

―― 投資の対象を分散させるということですね。対象を選ぶ際は、何に気をつければ良いでしょうか。

株式や投信、仮想通貨など。投資の対象にどのような種類があり、特徴を理解することが大切です。企業が発行する株式は値上がりによる利益もありますが、利益の一部を「配当金」として受け取ることができたり、株主優待がもらえるという利点がありますね。

――投信や仮想通貨についても、特徴を教えていただけますか?

投信とは「投資信託」の略です。専門家が、投資家から集めたお金をもとに、株式や債券などに投資し、その成果が分配されていく仕組みです。月1万円など少額から始めることができ、専門家に任せるため自分で投資先を選ぶ手間が減ります。

「ビットコイン」に代表される仮想通貨は、インターネットを通して取引が手軽にできます。他の投資対象と比較しても、ボラティリティ(価格変動)が高い傾向にあります。

――対象によって特色があるのですね。「不動産投資」といった言葉も耳にしますが、これはどういうものなのでしょうか。

不動産投資は、アパートやマンションなどを購入して家賃収入を得たり、購入した物件の価値が上がった時に売却し、その差額で利益を得ることを指します。税金や修繕費など維持管理するための資金が必要になりますが、一度購入すると毎月安定して家賃収入が得られるといった特徴がありますね。不動産は「実物資産」と呼ばれています。

――「実物資産」はどういったものなのでしょうか。

実物資産は、そのモノ自体に価値がある資産です。株式などは会社が倒産すると無価値になる可能性が高いですが、実物資産はモノが存在しているため、価値がなくなることはありません。

――実物資産は、他にどのようなものが?

美術品や金(ゴールド)・プラチナなども実物資産に含まれますね。美術品は、他と比べて「展示ができる」といった特徴があります。金(ゴールド)・プラチナなどは、月々数千円から投資を始めることもできます。

――実物資産だけでも色々な特徴があるんですね。

それぞれに特徴があり、値動きも関係しています。どれか上がった時は、どれかが下がる。だから、投資対象はひとつに絞るのではなく、分散させてポートフォリオを組むことが大切になります。金(ゴールド)は、欧米で「嵐の晩に輝く」といわれています。経済が不安定な時ほど価値が上がることが多いんです。私も、金(ゴールド)を持っていたことで救われたことがありました。

――そのエピソードを具体的に教えていただけますか?

リーマンショックの時に、株式で大損をしたんです。あれはかなり、精神にダメージを受けました。

ただ、私は金(ゴールド)にコツコツ投資していて、金(ゴールド)の値段が3倍に上がったことで、株で損した分の7割を取り返すことができました。株式の値段が下がったので、多くの人が金(ゴールド)を買ったから値上がりしたんですね。

――だから、投資先をひとつに絞るのではなく、バランスよく投資することが必要だと。

そうなんです。いろんな方法を試してみると、一方が下がっている時に、もう一方が上がる傾向にあるなど、世界の経済の動きを体で理解することもできるんですよ。

 

 

 

分散投資は、国際経済の勉強にもつながる

 

――経済の動きを体で理解するためにおすすめの方法はありますか?

これまで挙げた投資対象以外にも、石油や天然ガスといった資源、トウモロコシや大豆といった穀物といった実物資産にも投資する、という方法がありますね。こうした投資対象は、金(ゴールド)やプラチナなどの貴金属と合わせて、「コモディティ(商品)」と呼ばれます。

――資源や穀物は、どのような特徴があるのでしょうか。

天候や需給、国際経済の状況によって価格が大きく変動することですね。面白いのは、値動きを見ていると、遠く離れた国と国の出来事が、つながっていることが分かります。

例えば、オーストラリアは世界でも有数の資源が豊かな国なんです。国外に資源を輸出しているため、資源価格が変動すると豪ドルの価格に影響が出ます。

それ以外にも、豪ドルに影響がでる変化で特徴的なのが、中国の経済指標の変化です。中国はオーストラリアにとって最大の貿易相手なんですね。こういったことが、色々な対象に投資していると少しずつ見えてきます。

――博打的な要素があるけれど、学びにもつながっていくと。

はい、分散しながら少しずつ始めることで、これまで分からなかった国際経済や、サプライチェーン(原料から消費者に届くプロセス)の構造が理解できるようになりますよ。

――分散投資は、リスク回避だけでなく、経済の動きを知ることにもなるんですね。

はい。資源や穀物は生活の中で接点があり、多くの人にとってイメージしやすい。なので、日常生活の中で、関心を持ちやすいんですね。月3000~4000円でも始めると、自然と新聞を見るようになります。

――投資対象を分散させながら、小さく始めることで知識が増えていきそうです。

そうですね。少しずつそれぞれの特徴を理解しながら、学びにつなげて欲しいです。ランダムで良いので、何かに少額で投資してみる。そうすれば、投資の苦さや甘さを体験できると思います。

豊島さんの金言!
“投資は一方が下がっている時に、別のものが上がる傾向にある”
“分散投資をすることで、リスク回避だけでなく、学びにもつながる”

Illustration : Damien Florebert Cuypers
Artist Management:Agent Hamyak

PROFILE

豊島逸夫
三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され、外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリッヒ、ニューヨークの投資最前線でトレーダーの経験を積んだ後、金の国際機関ワールドゴールドカウンシルに入り、投資事業本部アジア・オセアニア地域担当本部長や日韓地域代表を歴任。金の第一人者となる。
2011年豊島逸夫事務所を設立。独立後は、活動範囲を拡大。自由な立場から、日経マネー、日経ヴェリタス、日経電子版などで、国際金融、マクロ経済評論などを行う。
モリジュンヤ(GOLD PRESS Contributing Editor)
2010年に『greenz.jp』編集部に参加。その後、『THE BRIDGE』『マチノコト』『soar』等メディアブランドの立ち上げに携わり、テクノロジー、ビジネス領域を中心に複数の媒体に寄稿。
「inquire」という編集エージェンシーの経営や、オンライン情報誌「UNLEASH」の編集長、ミレニアル世代向けビジネス誌『AMP』の共同編集長、ライティングを学び合うコミュニティ「sentence」のオーガナイザー、NPO法人soarの副代表理事などを歴任。