豊島さんが語る 経済のしくみと投資哲学 012 | 2020.05.28
“コロナ終息後”の日本経済と資産運用の考え方
Text by

豊島 逸夫

Itsuo Toshima

前回は新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)による“人類の危機”に際して、安全通貨としての金の価値が再認識されているという話をしました。実際、国際スポット価格はイースター休暇明けに1トロイオンス=1729ドルまで急騰しました。1700ドル超えは、もはや“バブル”の領域です。

日本では2020年4月16日、特別措置法に基づく緊急事態宣言の適用が全都道府県へと拡大。4月20日には米国ニューヨーク(NY)の原油先物価格が史上初のマイナスを付け、株式市場などにも動揺が広がりました。半面、欧米では感染拡大はピークアウトしたという見方もあり、米国ではジョージア州で一部のビジネスの活動停止を解除、ドイツでは都市封鎖(ロックダウン)の段階的な緩和が始まるなど、経済再開の動きも出てきています。

日本も封じ込め策が奏功すれば、年内に“終息宣言”が出せるかもしれません。しかし、そこからすぐに経済が回復するかと言えば、大きな疑問符が付きます。

流行が鎮静化したとしても、日本人はイタリアやスペインには行きたいが心理的抵抗がある、という複雑な心境になりそうです。同様に、中国人も「当面は日本に行くのを控えよう」となる可能性が大です。新型コロナウイルスが消えても、こうした“風評リスク”はなかなか消えません。一方で、緊急事態宣言以降は“巣ごもり”の生活習慣が染み付いてしまい、大勢で出かけてワイワイ楽しむことへの抵抗感が薄まるにはそれなりの時間がかかるでしょう。

そこで目下、我々プロの最大の懸念となっているのがコロナ終息後の日本経済です。「どの程度回復しますか?」と尋ねられても、正直予測は難しいと言わざるを得ません。

 

貿易摩擦のダメージ大、コロナ終息後の回復は不透明

 

筆者は経済がコロナショック前の状態に戻るまで終息から最低1年はかかると見ています。 コロナショックが勃発する前の、2019年10~12月期の日本のGDP(国内総生産)は四半期ぶりにマイナスに転じました。年率換算で7%を超えるマイナス成長です。それくらい、米中貿易摩擦や消費税増税の影響が大きかったということです。 中国依存度が高く貿易摩擦のとばっちりを受けた電子部品大手の社長は、決算発表の際に「米中の“手打ち”があったので来期は大丈夫です!」と話していました。しかし、その矢先にコロナショックですから、とても“リターンマッチ”どころではないでしょう。

さらに追い詰められているのが、個人事業主や若いフリーランスの方々です。そこで、政府は売り上げが半減した個人事業主への100万円給付や1人一律10万円のヘリコプターマネーを含めた緊急経済対策の実施を決めたわけですが、手詰まり感が否めないのは、実効性のある政策が見当たらないからです。 例えば、金利を下げて企業の資金調達をしやすくし設備投資を促すとか、預貯金をしている人には利息を増やすとか、2008年のリーマンショックの際には、こうした施策が機能しました。しかし今はマイナス金利ですから、日本銀行は手の打ちようがありません。

100兆円規模の経済政策費用の一部は、国債発行で賄われるようです。合計で1000兆円を優に超える国の債務は既にGDPの2倍に達しており、いずれは若い世代にこのツケが回ってきます。

 

リサイクルが頭を押さえるが、金価格は大きく上昇

 

経済は停滞。マーケットは超緩和。そうした中で金融資産として何を持っていればいいかと言えば、やはり、独自の価値を持つゴールドとの確信を筆者は深めています。 まずは命と健康を守ることが必須ですが、その次には金で財産を守ることも必須となります。40年間「資産の10%は金で」と説き続けてきた筆者ですが、今では「30%まで金の割合を高めましょう」と勧めています。これは“資産防衛”であり、儲け話ではないのです。

結果的に金価格の高騰は長期化しそうです。以下の2つのファクターも金価格の上昇要因となるでしょう。

まずは各国の中央銀行による金の購入です。取り分け“爆買い”が目立つのが中国とロシアで、従来は外貨準備としてドルを買っていましたが、これを金にシフトさせた格好です。コロナ問題を機に他国でも金の準備高を増やす動きが出てきて、終息後は飛躍的に購入量が伸びる可能性があります。

そして、金の市場関係者の間で取り沙汰される「ピークゴールド説」。2019年には通年で金価格が2割も上昇したのにも関わらず、産出量が11年ぶりの減少となったことで、「産金量は頂点に達した」というこの説がにわかに現実味を帯びてきたのです。将来的に金の供給が需要に追い付かなくなる可能性があります。

一方で、金価格が上昇すると手持ちの金を現金化しようというリサイクルが増え、チャートの頭を押さえます。ひとつの目安が1500ドルの高値で、ここを超えるとリサイクルが急増します。実際に今、金のジュエリーから金製の義歯まで、ありとあらゆる金製品が続々貴金属商などの店頭に持ち込まれています。 過去のデータを見ると年間の平均価格が1500ドルを超えた年の年間リサイクル供給量は約1700トン。金の年間生産量は約3300トンに過ぎませんから、この1700トンが与えるインパクトは決して小さくないのです。

従って、いくら金価格が上昇基調だからと言っても、一本調子で上がっていくわけではありません。特にこういうご時世ですから、来週、来月、金価格がどうなっているかと聞かれても、プロである筆者も予測するのは困難です。

そういう時は、まとめ買いをするのでなくタイミングを分けて購入した方が“高値掴み”のリスクを減らせます。筆者もセミナーなどでは「100万円の資金があるなら、10万円ずつ10回に分けて買いましょう」とアドバイスしています。 こうした分散投資が面倒だと感じるなら、毎月少額ずつ口座引落としで買っていく純金積立があります。もとより積み立て投資商品は、アップダウンを繰り返しながらも長期的には上昇していくマーケットを前提に設計されたものです。そういう意味で、今は「純金積立向きの相場」と言っても良いでしょう。

金価格の長期的な上昇が予想される今は「純金積立向きの相場」

Text : Itsuo Toshima, Toshiko Morita
Illustration : Damien Florebert Cuypers
Artist Management:Agent Hamyak

PROFILE

豊島逸夫
三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され、外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリッヒ、ニューヨークの投資最前線でトレーダーの経験を積んだ後、金の国際機関ワールドゴールドカウンシルに入り、投資事業本部アジア・オセアニア地域担当本部長や日韓地域代表を歴任。金の第一人者となる。
2011年豊島逸夫事務所を設立。独立後は、活動範囲を拡大。自由な立場から、日経マネー、日経ヴェリタス、日経電子版などで、国際金融、マクロ経済評論などを行う。