豊島さんが語る 経済のしくみと投資哲学 014 | 2020.08.28
マーケットを席捲する投資の“超初心者”たち
Text by

豊島 逸夫

Itsuo Toshima

新型コロナウイルス禍によるニューノーマル(新しい日常)下のマーケットで投資初心者の参入が急拡大しています。代表的な存在が米国の「ロビンフッター(Robinhooter)」と呼ばれる個人投資家たちです。
米国では日本の特別定額給付金(10万円)に相当する一律給付金が大人1人につき最大1200ドル支払われ、コロナ対策の失業手当は7月末まで週600ドル加算されています。米国民の中にはこうした給付金のおかげでようやく生活できるという人がいる一方で、経済的には多少余裕があって「給付金がもらえてラッキー!」という人もいます。後者の中に、“濡れ手に粟”の給付金だから損をしても構わないと、株式や通貨などのリスク商品を売買する人が急増したのです。

 

“超初心者軍団”がマーケットの攪乱要因に

 

ロビンフッターという呼び名は彼らの多くが利用している、株式売買手数料が無料になるスマートフォンの証券取引アプリに由来するものです。ロビンフッターの大半は投資の「超」が付く初心者で、1人当たりの投資額も1000~2000ドルと決して多くはありませんが、その数は米国全体で何十万人、何百万人にも上り、株価を動かす要因になっています。
コロナの第二波に揺れる米国で、ニューヨークダウ工業株30種平均株価やナスダック総合指数が高値を更新している要因のひとつに、こうしたロビンフッターの存在が指摘されています。

そうなるとマーケットもロビンフッターの動向が無視できなくなります。
我々プロにとっては、この“超初心者軍団”は脅威でもあります。彼らの行動が読めないからです。
例えば株価が上昇した時に彼らはすぐに利益を確定するのか。経済的に余裕があるので売らずにしばらく様子を見るのか。あるいはさらに上がると考えて買い増すのか。 相手が同じプロであればある程度手の内が読めますが、初心者がどういうシナリオを選択するのか、皆目見当が付きません。かくしてロビンフッターは市場の攪乱要因ともなっています。

日本の市場にも米国ほどではありませんが“日本版ロビンフッター”が増えています。実際コロナショック以降、インターネット証券で若年層を中心に新規の口座開設数が急増、売買高も大きく伸びました。こうした現象は金へも波及しつつあり、金のオンラインセミナーでは「金はなぜあんなに輝くのですか」、「いくらくらいから買えますか」といった初歩的な書き込みが増えるなど、超初心者が普通に参加するようになっています。

 

超初心者の投資に潜む“落とし穴”

 

長年金投資の普及に携わってきた筆者にとって、こうした“ロビンフッター現象”は驚きでもありました。金投資の未経験者は、運用対象としての金の魅力を理解して「買ってみようかな」と思っても、なかなか最初の一歩が踏み出せません。それくらい一歩目のハードルは高いのです。
にも関わらずロビンフッターたちは大して躊躇することもなく、その高いハードルを乗り越えています。元手が国からの給付金ということが大きいのでしょうが、筆者にとっては一大発見であり、今の状況を非常に感慨深く見守っています。

半面、プロとしては彼らがこのまま深入りしていくことを心配する気持ちもあります。 ゲーム感覚で株式を購入しているとしたら、株価がぐんと上がって大きく利益が出た場合、「面白いから、またやってみよう」と徐々に投入額を増やしていくのが人情でしょう。
そうなるともはや給付金だけに止まらず、虎の子の預貯金にも手をつけることになります。心の中には一抹の不安もあるでしょうが、「大丈夫!ここまで上がったのだから、もっと上がる!」と自分に言い聞かせるようにして取引するわけです。 その結果大損をするというのは、こうした“投機(投資ではありません)”について回る定説です。ロビンフッター的な投資は常にそうした危険性をはらんでいるのです。

 

給付金で金を買って将来に備える

 

このような罠にはまりたくなければ、ビギナーズラックを投資へのモチベーションに変え、これを機にしっかり勉強して、投資の世界を広げていくことです。
投資のリスクを抑えるには、資金をひとつの金融商品を注ぎ込むのではなく、株式、通貨(米ドル)、金など様々な投資対象に振り分けておくことが大切です。さらに、同じ金融商品を購入するにしても時期をずらして何度かに分けて買うようにする必要があります。こうした“投資の王道”を自動的にやってくれる便利なシステムが「積み立て」です。

現在、金は歴史的な高値圏にあり、筆者もセミナーなどでは「購入する際はタイミングを分散すべき。」と口を酸っぱくして話しています。こういう時期だからこそ、毎月少額ずつ買い増していく純金積立は、これから金投資を始める人にぴったりの投資方法と言えるでしょう。

最近、コロナ禍を機に自身のライフスタイルや将来へのライフプランを見直した人の話をよく聞きます。背景にはコロナによる人生観の変化やリモートワークで自由になる時間が増えたことがあるようです。
そうした中でこれまで踏み出せなかった投資を始めるというのもひとつの選択です。10万円の特別定額給付金を現金のまま保管している内にいつの間にかなくなってしまったり、ゼロ金利の預貯金をずっと寝かせておいたりするくらいなら、10~30年後の自分や家族のために純金積立で少しずつ金を買っておくのも有益な資産形成術と言えるでしょう。

投資初心者こそ“投資の王道”純金積立を活用すべし

Text : Itsuo Toshima, Toshiko Morita
Illustration : Damien Florebert Cuypers
Artist Management:Agent Hamyak

PROFILE

豊島逸夫
三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され、外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリッヒ、ニューヨークの投資最前線でトレーダーの経験を積んだ後、金の国際機関ワールドゴールドカウンシルに入り、投資事業本部アジア・オセアニア地域担当本部長や日韓地域代表を歴任。金の第一人者となる。
2011年豊島逸夫事務所を設立。独立後は、活動範囲を拡大。自由な立場から、日経マネー、日経ヴェリタス、日経電子版などで、国際金融、マクロ経済評論などを行う。