豊島さんが語る 経済のしくみと投資哲学 023 | 2022.11.29
「長期化する円安」に個人ができる唯一の対策とは?
Text by

豊島 逸夫

Itsuo Toshima

輸出型企業が多い日本では長期に亘り「日本製品が売れなくなる円高こそ日本経済のアキレス腱」と考えられてきました。しかし2022年にドル円相場が円高から円安へと我々プロも驚くような180度の転換を遂げた結果、今度は日本経済にとってハッピーだったはずの円安に戸惑う人が増えています。「安い日本」を目指して世界中からインバウンド客が押し寄せているのに対し、海外へ出張や旅行に出かけた日本人からは「あまりの物価の高さに愕然とした」という話をよく聞くようになりました。

短期的には米国の利上げでマイナス金利の日本との金利差が拡大し、投資マネーがより高い金利を求めてドルに流入しているという側面もあります。しかし筆者は、この円安は少なくとも5年以上続く前提で考えておいた方がいいと思います。それは日本が資源の大半を海外に依存する資源輸入国だからです。円安で輸入価格が値上がりし、食料品や住宅用木材などの高騰が今、庶民の生活を直撃しています。とは言え、我々国民がいくら足掻いてもこの円安をどうにかできるというものではありません。

 

日本人の大半は円建て資産しか持っていない

 

我々にできる円安対策はひとつしかありません。それは「資産を円だけで持たない」ことです。筆者の肌感覚だと円建ての資産が100%という人が日本人の約8割に上ります。筆者は10年以上前からセミナーや講演会などで「外貨預金もしましょうね」と訴え続けていますが、「そんな怖いことはできません!」とか「私はこのまま日本に骨を埋めるつもりだから円があれば十分です」という具合に皆さん大変強い外貨アレルギーをお持ちのようです。

お金の専門家であるファイナンシャルプランナー(FP)でさえ「外貨投資は為替リスクがあるから気をつけましょうね」と言う始末。しかし筆者に言わせれば、円資産しか持たないことの方が余程怖いと思います。考えてもみてください。我々のライフスタイルは欧米化され、毎日食べるモノや着るモノ、家のインテリアなどの5割以上は外国製品です。にも関わらず、財産の分野だけグローバル化が一向に進まず、未だに鎖国状態のような人が大勢いるのです。

ですから筆者は今の時代、少なくとも資産の2割、場合によっては3割を外貨で持つ必要があると考えています。

 

 

リーマンショックで再評価された無国籍通貨の金

 

ではどの通貨がいいかと言えば、第一の選択肢はドルです。なんだかんだ言って米国は国力がありますし、経済もダイナミックです。ドルには国際間の資本取引や貿易取引で広く使われる決済通貨であるという強みもあります。世界はドルで回っているのです。

さらに、この先5~10年のスパンで考えた時に無視できないのが人民元です。中国が米国と並ぶ経済大国になっていくのは間違いありません。人民元は人口14億2500万人超※1の巨大な経済を支える基盤です。中国の政治体制には異論を唱える人も少なくないでしょうが、そこは割り切って考えるのが経済の世界。今はドルでも、2~3年後には資産の1割程度を人民元やユーロで持つことを検討してもいいでしょう。

※1 出典:China Population 2022 Demographics, Maps, Graphs(https://worldpopulationreview.com/countries/china-population)

もうひとつドルとセットで持ちたいのがリスクヘッジの金です。今は「最強の国家」である米国にも死角はあります。例えば2024年の大統領選であのトランプ氏が返り咲く、或いは9.11のようなテロが再発したら、一時的にドルが叩き売られる局面があるかもしれません。そうした時こそ、金の出番です。

金は発行体のない「無国籍通貨」ですから、クレジットリスクがありません。さらに自然界の有限物質ゆえの希少価値を持ち、腐食せず長期保存が可能な性質から、3000年以上に亘って通貨として使用されてきた歴史があります。時代が下って物流が発達すると持ち運びに不便な金に代わって貨幣が登場し、各国経済が急成長を遂げた1930年代には貨幣の価値を金で担保する金本位制が次々廃止されました。しかし2008年のリーマンショックにより各国の信用で成り立つ貨幣の欠陥が露呈し、金が再評価されます。以降は各国が外貨準備として金を購入するようになり、金価格を大きく押し上げたのです。

注意すべきは当面ドル円も金も一時的に値動きが激しくなる局面が想定される点です。こうした時期に一度にまとまった金額を投入すると後々“高値掴み”で後悔することになりかねません。外貨積立や純金積立で毎月少しずつ買い増していくのが賢明です。

今こそ資産構成を見直し、「円だけ」を止める。ドルとリスクヘッジの金で円安長期化に備えよ。

Text : Itsuo Toshima, Toshiko Morita
Illustration : Damien Florebert Cuypers
Artist Management:Agent Hamyak

PROFILE

豊島逸夫
三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され、外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリッヒ、ニューヨークの投資最前線でトレーダーの経験を積んだ後、金の国際機関ワールドゴールドカウンシルに入り、投資事業本部アジア・オセアニア地域担当本部長や日韓地域代表を歴任。金の第一人者となる。
2011年豊島逸夫事務所を設立。独立後は、活動範囲を拡大。自由な立場から、日経マネー、日経ヴェリタス、日経電子版などで、国際金融、マクロ経済評論などを行う。