「種を育てるように」
Text by

松浦 弥太郎

Yataro Matsuura

なさま、こんにちは。

いかがお過ごしでしょうか。

今年も半ばが近づき、知らず知らずに身体の疲れが出始める頃。どうか無理せず、自分らしいペースを心がけてください。この時期に大切なのは、良き睡眠と、規則正しい食生活です。

さて、投資の世界において、「リスクとリターン」という言葉をよく聞くかと思います。

「ハイリスクでハイリターン」もしくは「ローリスクでローリターン」の、どちらを選ぶかと問われたりもしますね。しかし、この言葉には注意が必要です。なぜなら、これらは投資勧誘をするために生まれた言葉だからです。たくさん儲けたいのであれば、たくさんの損失を覚悟してくださいね、というように。

常々思うのですが、この問いほど、おかしなものはありません。なぜなら、リスクとリターンのパターンは、決してこのふたつしか無いとも限りませんし、「ハイ(高い)」「ロー(低い)」というのは、投資の本質からかけ離れているからです。

私が思うに、投資には、常にリスクが存在していて、リスクが高いとか低いとかの判断だけで投資を決断するというのは、伸るか反るかの大博打でしかなく、決して投資とは言えないのです。

投資をするかしないか。その決断を、稼ぐとか儲けるという目的で行わないこと。そうしないと必ず失敗します。投資にはもっと大切な意味がたくさんあるからです。その中で一番は学びです。自分が選んだ投資対象について深く学べる良いチャンスなのです。

誰でも儲け話には弱いものです。実際に儲け話にのって、たくさん儲けた人がいるのも事実です。けれどもそれは本当に稀なことで、ほとんどの人が儲け話にのって大失敗をしているのです。

たとえば、「金」に投資してみる。あなたは「金」について学ぶでしょう。きっと投資をしている間、少なからず試練のような学びも体験するでしょう。

ここで知っておくべきことがあります。チャンスというのはほとんどの場合、常に試練という形に変えてやってくるのです。訪れる試練をただの困難と捉えてしまうのか、もしくは、その中身はチャンスだと思うのか。大きな違いなのです。

「金」の投資で試練が訪れるとしましょう。チャンス到来です。あなたはさらに「金」について学ぶでしょう。いや、学ばされます。すると、自然と「金」について人一倍詳しくなりますね。これはチャンスなのです。ここで言う「詳しくなる」ということが、どれだけ価値のあることか分かりますでしょうか。投資とは学びである。これはとても本質を突いた言葉なのです。

投資の世界で成功する秘訣は、投資対象についてどれだけ「詳しくなる」か。これに尽きます。そしてもうひとつ、これはつくづく思うのですが、結局どんなことでも、やらなければ、何も始まらないということです。無理な投資はすすめませんが、投資をギャンブルだと考えずに、自分が選んだ「富」の種を育てることに、自分も参加をすると考えるのが良いでしょう。

すなわち、投資によって、いろいろな体験ができる学びが、実はリターンの本質であり、価値なのです。もちろんその種が育って、きれいな花が咲けば、お金によるリターンもあるのです。

いかがでしょうか。やみくもに投資をすることはおすすめしませんが、お金というのは投資をして増やすだけが目的ではなく、投資を通じて学びを深め、その積み重ねによって「詳しくなる」というリターンにも価値があるということです。

そして、結果として「詳しくなる」ことが、あらゆることで成功するための条件でもあるのです。

良き種を見つけ、その種を植えて、水をやり育てる。大きく成長させて花を咲かせる。花が枯れたら、たくさんの種が残ります。増えた種を同じように植えて育てていく。このプロセスを、学びながら、賢く支えていくことが、投資でもあるのです。

それではまた。

PROFILE

松浦 弥太郎/Yataro Matsuura
2006年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年4月、クックパッド(株)に入社。同年7月に新メディア「くらしのきほん」を立ち上げ、編集長を務める。現在は(株)おいしい健康・共同CEOに就任。
「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。
中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。