豊島逸夫の手帖

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金価格急落 買いゾーンへ突入

2004年4月16日

前回述べたように、海外金価格は上げピッチがあまりに急なために430ドルに接近したところで失速した。 NY先物市場買い残高が、318トン(前回執筆時点)でも相当高い水準だったのが、更に急速に上積みされて、欧米の復活祭休暇直前には448トンという記録的レベルにまで膨れ上がったのだ。所謂地政学的リスク(※)といわれる要因で、イラク、パレスチナ情勢緊迫を嫌った投資資金が安全性を求めて金市場へ一気に流入した結果である。但し、先物市場での買いは、いずれ売り戻される宿命にある。長い目で見ればチャラになる、ゼロサムゲームである。先物買いが448トンまで膨れ上がった直後に、風船が破裂する如くにはじけた。一気に、我先に売り手仕舞いに走った。はじけた勢いで400ドルをも割り込んだ。

勿論理由はある。米国経済の指標が足元ではとにかく好調なのだ。特に個人消費のトレンドを示す小売売上統計が予想を大きく上回る上昇を見せたことが効いた。どのように効いたかというと、グリーンスパンさんが早晩、景気の過熱を未然に防ぐためにドル金利を引き上げるだろうとの観測が出始めたのだ。ドル相場も一転ドル高(ユーロ安、円安)に転じた。こうなると金は売られやすい地合いである。 そういうわけで、海外金価格は4月1日に433ドルの高値をつけた後に、本稿執筆時点では399ドルまで下落した。その間、円安が108円台まで進行したが、それでも、円建て金価格も大幅な下落である。 以上が短期的相場動向だが、大事なことは、長期アップトレンドが変わっていないことだ。

世界的権威ある金統計年報が15日にGFMS社により発表されたが、そこに長期トレンドが明確に述べられているので紹介しておきたい。 結論から言うと、同社は今年いずれ金価格が450ドルをつけると予想している。理由は、近年の金需要の伸びが投資需要の急増によること。従って、マクロ経済要因が金価格の方向性を決める。そこでキーになるのが米国経済の行方である。足元で絶好調ではあるが、同社によれば、双子の赤字に加え、民間個人部門での債務も膨大な量があり、米国株式もさきゆき非常に不安定である。従って米ドルは売られやすく、対して金は買われやすい状況が続くという。勿論イラクなどの中東問題も見逃せない。

このようなトレンドなので、価格が下がったときは買い場といえる。特に、380-390ドルの水準にはアジア中東地域を中心に大量の現物買いが待っている。これまで400ドル以上では手が出なかった実需筋が、待ってましたとばかりに買いに入るのだ。彼等は、じっとNY先物市場の展開を見守り、先物買いのバブルがはじけて、手仕舞い売りにより相場が下がったところで、一挙に買いに出るのだ。意識してそうなるのか否かはともかく、賢い立ち回り方だと思う。 テロなどで相場が急騰しているときに買うより、一段落している時の買いを入れるほうが(勇気はいるが)、長期的には正解であることが多いのは、金市場の経験則が示している。

地域的に軍事的あるいは政治的な緊張が高まることにより、世界経済が影響を受けるような事態のことを指す。たとえばイスラエル・パレスチナ紛争の激化、イ ラク情勢の悪化、テロの発生、北朝鮮の核開発等。ちなみにこのような地政学的リスクが高まる段階では、「資金の避難先」として金などの実物資産が選択されることが多いことはよく知られている。
 
2004年