豊島逸夫の手帖

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2004年上半期世界金市場動向

2004年9月17日

GFMS(※1)が恒例の半期に一度の金需給調査レポートを発表した。 結論から言うと、金価格はfirm modestly(緩やかな上昇)を予想。年末までの平均価格を407ドルとして、年末にかけ強含む可能性ありと述べている。ただし、その場合でも、今年のこれまでの高値である427.5ドルは年内は抜けないとし、新高値は新年に入ってからと見ている。なお、下値は390ドルで固いとの見方だ。 その根拠をまとめてみると;

1. 新産金(※2)

2003年下半期に比し、84トン、7%の減少を記録。豪、インドネシアの事故などで生産量が半減したことが大きい。南アも減。他方、中国、ペルーは増加基調。2004年下半期は減少幅も1%程度になる見込み。

2. 生産コスト(※3)

キャッシュコスト(減価償却含まず)が13%上がり、246ドル。ここでは、ランド、豪ドル高という為替要因が効いている。価格上昇の中で、低品位鉱採掘が増えたことも原因のひとつだ。

3. 中銀売却(※4)

30%の大幅減少で200トン。下半期も同様の減少を記録しそう。この分野は鎮静化した。

4. スクラップ(※5)

14%減って、424トン。下半期にはさらに減って、350トン程度を見込む。タイ、インドネシアなどで減少している。

5.宝飾需要

6%増えて、1300トン。トルコ、インド、中国が牽引役だ。イラク問題やSARSが一段落したことも原因のひとつだ。下半期も引き続き上昇の見込み。

6. ヘッジはずし(※6)

ヘッジはずし(買戻しなど)の動きが加速し、前期の43トンから209トンへ急増。これは需要項目になる。その結果、ヘッジ残高も2000トンの大台を割り込み、1997トンとなった。アングロゴールドが62トンのヘッジ減らし(ヘッジはずし)、バリックが同じく51トンなど大手が目立つ。 下半期も8月にシスル鉱山が15トン買い戻し、オセアニア鉱山が29トン買い戻し、サンズオブガリアが52トンのヘッジを抱えて破綻するなど、依然200トンペースが続きそう。

7. 投資需要

ここは激変した。まず、欧米の投機的金投資需要は前期のプラス444トンから今期マイナス143トンへ。つまり、高値圏で投資家の売り戻しが勝ったということ。反対に、アジア中近東(日本含む)の金退蔵需要(長期現物保有)は66%と大幅増の133トンを記録。例えば、インドは1月に価格420ドルレベルの時は月間金輸入量が30トンだったのが、5月に380ドルまで下がると80トンまで増えた。

以上まとめてみると、需要サイドが徐々に高値に慣れて買いを入れてきている様子が伺える。他方、供給は減少傾向だ。市場のファンダメンタルズは堅調と言えよう。

※1 国際貴金属マーケットに関する調査分析を専門とする、世界で最も信頼の厚いコンサルタント会社ゴールド・フィールズ・ミネラル・サービシズ社のこと。
 
※2 世界中の金鉱山から新規に産出される金生産量のこと。供給サイドの最大項目。ちなみに2003年の年間鉱山生産量(新産金)は2593トンだった。
 
※3 鉱山各社が金を採掘し、粗精製するためにかかるコストのこと。ここで示されている生産コスト246ドル(オンス当たり)は、2004年上半期の平均数値。
 
※4 各国中央銀行では準備資産として金を保有しているが、その保有金の売却のこと。公的売却とも言う。ヨーロッパの中央銀行では高すぎる保有比率を下げる傾向にあるが、その反面、中国を筆頭にアジア各国の中央銀行では積み増しする傾向にある。
 
※5 宝飾品の売り戻し等から出る回収・再利用金のこと。中古金スクラップまたはリサイクル金と呼ぶ。一般的に金価格が上昇すると増加する傾向にある。
 
※6 金価格が下がり続けた1990年代に、鉱山会社は価格下落リスクを避ける目的で将来採掘される金をヘッジ売り(先売り)していた。しかし金価格が上昇トレ ンドに転換して以降、鉱山会社は短期的な価格下落局面でヘッジ売りした金を買戻し(ヘッジはずし)している。金価格の下支え要因となっている。
 
2004年