豊島逸夫の手帖

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地震と金

2004年10月25日

日本特有の現象だが金購入の理由として必ず挙がってくる項目に"燃えない資産だから"というのがある。今年3月WGCが実施した日本人金購入理由調査でも25%の第4位に出てきている。この答えは特に関西地区に多く見られるのが特徴だ。

理由は関西大震災である。地震直後のテレビニュースショーで非常に印象的な光景が放映されたことが未だに記憶にのこっているのだ。そのシーンでは焼け野原に年配の女性が放心状態で佇み、足元の焼け爛れた金庫をバールで必死にこじ開け始めていた。その中から出てきたのが、まず、灰になった紙幣。そして、その次の瞬間に金貨が、表面は焼けているとはいえほぼ原型をとどめて画面に大写しで現れたのだ。そのときの女性の安堵した表情がなんとも印象的で未だに覚えている。なお、あの震災直後は、大手貴金属商が特例措置をとり、多少焼けた金地金や金貨もそのまま買い取ったということである。なお、金は表面が焼けたり溶けていても全体の重量に変化はない。蒸発はしないから。

あのときは更にマンション倒壊などで資産としても不動産絶対神話が崩れたことも影響した。

この一件のあとに金ブームが起こり、円高も重なり、同年の日本の金投資需要量は前年比倍増の129トンを記録した。

なお、あの9.11米国同時多発テロのときにも、ワールドトレードセンター地下6階にあったNY金取引所の在庫金地金数トンが回収されたとのことであった。筆者もディーラー時代にスイス銀行からNY取引所でトレニー(研修生)として派遣され、場立ちをやった経験があるので特に心にせまるものがあったね。

2004年