豊島逸夫の手帖

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大統領選挙と金価格

2004年9月10日

共和党大会も終わり、夏の終わりを告げるレーバーデー週末も終わり、いよいよこれから秋口にかけて、米大統領選挙という材料が市場の関心の焦点になりそうだ。 いろいろ議論されているが、結論からいうと、ブッシュ、ケリーどちらが大統領になっても金価格への影響は変わらないと、筆者は見ている。大統領選挙の帰趨が金市場に影響を与えるとすれば、以下の点であろう。

(1)対イラク、テロへの強硬姿勢に変化があるか。所謂地政学的要因が続くか。

(2)米国経済の構造的問題、即ち"双子の赤字"に抜本的措置が講じられ、ドル不安に終止符が打たれるか。

(3)経済が本格的回復軌道に乗り、金利が上昇するか。

そこで、それぞれについて吟味してみよう。

(1)ブッシュはタカ派、ケリーはハト派というのが常識的見方だが、最近のケリーの言動を見ると、彼もなかなかのタカ派である。ブッシュの"アメリカの安全を守れるのは私しかいない"という強烈なメッセージに対抗しているのだろう。ケリーも、しきりに、ベトナム戦争での己の武勇伝を語っている。どうも、どちらが、大統領になっても、結局は地政学的要因は残りそうな気配だ。それに、問題の根幹の宗教的、文化的な葛藤は、新大統領の力で消せる要因でもない。有事の金買いは続く。

(2)"双子の赤字"などという言葉はそもそも大統領選挙には出てこない。民主党は、まずは福祉、年金、健康保険問題、教育などで大盤振る舞い。共和党は、減税を辛抱強く続ければ景気浮揚効果により赤字も返済できるという伝統的議論。ケリーは"大きな政府"="Expensive Government"、ブッシュは減税の恒久化をそれぞれ唱える限り、赤字の解消の優先順位は低い。だいたい、双子の赤字を減らす政策というのは国民に痛みを強いる政策であり、選挙には全く馴染まない。先送りが見えている。従って、ドル売りの根本的材料はどちらが大統領になっても残るだろう。

(3)景気の問題については先週発表の8月の新規雇用統計が10万人以上に回復し、前月の大幅なヘコミも上方修正された。ブッシュもやれやれほっと一息であろう。でもまだまだ予断を許さない。かといって、ケリーの経済手腕は未知数という不安要因がある。どちらがなっても、とても安心できる状況になるとは思えない。グリーンスパンさんは留任だが、利上げを予定通り"慎重な"ペースで実行するかどうかは未だ疑問と言わざるを得ない。

このように見てくると、大統領選挙は確かにタイムリーな話題なのだが、それがいきなり金価格のトレンドを決めるようなインパクトを持つとは考えにくい。ブッシュ、ケリーよりグリーンスパンの一言の方がはるかに材料視されるのではないか。 新大統領のインパクトが市場内で感じられるようになるのは、着任してしばらく経って米国経済やイラク情勢への取り組みの実際が明らかになる時期まで待たねばならないであろう。

2004年