豊島逸夫の手帖

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年金と金

2004年4月30日

年金問題の根は深いが、ひとつ重要な点は、年金資産運用の問題である。私たちが積み立てている年金が、受給開始まで如何に運用されるかということだ。ゼロ金利の時代ゆえ、毎年どんどん年金資産が増えてゆくことは期待できないにしても、少なくとも如何に目減りを防ぐかということが焦点であろう。 今でこそデフレ、円高の時代と言われるが、受給開始まで10年、20年、30年あるとすれば、その間に、インフレもあるかもしれないし、円安トレンドに転じるかもしれない。超長期の資産運用になるので、いろいろなケースを考えなければならないのだ。 そこで、金が運用のひとつの選択肢に考えられる。

年金資産の大部分を占める株、債券などの所謂ペーパー資産が目減りするようなときに、逆に価格が上昇して、損失分を補ってくれる働きをするからだ。これを金のヘッジ機能といい、ペーパーアセットとは逆の値動きをする資産のことを代替資産という。 代替資産は、決して運用の主役ではなく、脇役だからせいぜい全資産の10%も持てばよろしい。でも、脇役とはいえ、得がたい"隠し味"を出す。 米国では年金資産運用に金が既に使われ始めている。株や債券だけでは、イラク戦争などの地政学的リスクをヘッジできないので、代替資産を組み込む動きが本格化しているのだ。代替資産というカテゴリーのなかには、ヘッジファンドや未公開株、不動産証券そして金などの天然資源が含まれる。

実は、筆者が属するWGCのロンドン本社(非営利法人)のボスが、ジェームス バートンというアメリカ人なのだが、全米最大の年金基金カルパース(カリフォルニア州職員年金基金)のCEOを7年間勤めた人物なのだ。そのようなリクルート現象を見ても、年金と金の密接な関係が感じられる。 日本でも日経新聞や日経金融新聞で、厚生年金基金の運用の選択肢として金などが浮上していることが、これまでにも伝えられている。 こうしたプロの機関投資家の動きと平行して、個人投資家の中には既に金を年金の足しとして考え購入している人たちが出てきている。

例えば、キロバー10本を千両箱で購入する人たちに聞いてみると、老後毎年一本(現在150万円程度)を売却して、毎月のゴルフや旅行などの楽しみに当てて、且つ可愛い孫にも小遣いをあげたいという目的を持つ人たちが見られる。毎月数回ゴルフして、時々旅行もするには今の貨幣価値で年間150万円もあれば十分であろう。それが10年後、インフレなどで同じ回数楽しむのに200万円かかるか、300万円かかるか分からないが、キロバーで持っていれば、それを換金することで、今とほぼ同じ回数楽しめることは期待できる。金が独自の価値を保ち、現在の150万円相当の購買力を10年後まで維持できることが十分期待できるからだ。 このように金により、将来の年金の目減りを補填する考え、金を年金の足しにする考えは、正に金の資産としてのメリットを利用したもので筆者も奨められる金の持ち方である。

2004年