豊島逸夫の手帖

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中国金解禁最新レポート

2004年3月18日

国際商品市況が中国からの膨大な需要を先取りして急騰している。金も例外ではない。あるいは他の商品以上に中国フィーバーといっても過言ではない。 というのは、金は商品であると同時におカネでもあるため、中国の日銀にあたる人民銀行がこれまで完全に売買を統制してきたからだ。中国経済の成長という要因に、規制緩和という要因も加わりダブルで市場に効いている。

それでは、何故、厳しく統制してきたかといえば、いきなり完全自由化してしまうと、かなりの中国人民が人民元を金に換える可能性があるからだ。もともと中国の長い歴史のなかで、人民元という通貨は新参者だ。通貨単位などは何時変わるかも分からないという意識が強く、じっくり持つなら、やっぱり金だという考えは根強い。だからこそ、当局も規制せざるを得なかった。 しかし、中国もWTOに加盟するにおよび、いつまでも金だけを統制下に置くこともできなくなってきた。

まずは、具体的な形で示そうと、2年前に上海に金取引所を創設したのだ。 しかし、器を作ったものの、肝心の民間の金取引は規制されたままだった。 そこで、第二弾の自由化として、宝飾産業への外資参入が昨年3月許可され、一躍イタリアの宝飾製造技術や機械、デザインなどのソフトが導入された。これで、宝飾需要のインフラが整備されて、取引所経由の宝飾用金地金の調達が軌道に乗ってきた。

更に、第三弾が、個人金投資の自由化だ。 これも段階的解禁が進み、先ずは、バンクオブチャイナが昨年11月に個人向け金口座を発売した。但し、これは、現引き(現物を受け取ること)ができない。あくまで、ペーパー取引である。 そこで、次に、金融機関における個人向け金地金、金貨などの売買、保有の自由化が控えている。これは、早晩実施されるだろう。 その次は、先物である。これは、先月、上海金取引所が、試験運転を始めたが、人民銀行によりフライングと判定された。未だ、時期尚早とのことだ。しかし、これも来年までには、許可されそうだ。

そして、最後の大きな難関が、人民元の完全自由化だ。現状では、人民元相場はドルにペッグ(対ドルで固定)されているので、人民元建て金価格も国際金価格と完全自由に連動していない。人民元の変動幅拡大の可能性が最近しきりに報道されているが、とにかく、人民元が完全自由化されなければ、上海金取引所も完全な機能は発揮できないわけだ。 従って、まだ、先は長い。紆余曲折もありそうだ。しかし、市場の材料としては夢のあるテーマだ。 特に、金解禁に関しては先輩格のインドが90年代にいち早く段階的金解禁に踏み切り、90年代当初は年間200トン前後だったインドの国内金需要が800トン以上にまで急増した前例がある。奇しくも中国の現在の年間金需要は200トン前後である。だからこそ、ロンドンのアナリストたちは、21世紀初頭に中国の金需要が控えめに見積もっても年間500トンには行くのではないかと期待を寄せているのだ。500トンといえば、年間の中央銀行金売却量に匹敵する量だから、そのインパクトは大きい。

但し、中国関連要因は、実現に時間がかかる。市場に与える影響もボディーブローのようにじわじわと効いてくる性質のものだ。未来の夢のある市場のテーマとして今後も注目されよう。 なお、中国政府は民間に先駆けて、3年前から金準備増強に動いており、2001-2年に計200トン公的金保有を増やし、600トン台とした。それでも、対外準備資産に占める金の割合は依然、1.9%に過ぎず。欧米主要国の40-50%に比べ月とすっぽんの違いがある。まだまだ、中国の金購入は始まったばかりであることを、これらの数字は示唆している。

2004年