2004年2月20日
最近の金価格の動向に最も強い影響を与えている要因は米国経済であろう。特に、世界経済の牽引車と言われる米経済の最近の目覚しい回復ぶりが今後も続くのか、或いは単なる一過性の"あや戻し"なのか。
米経済の適度な回復が持続されれば、金価格は下がる可能性がある。しかし、景気回復が順調を通り越し過熱の恐れが出ると、一転、インフレ懸念により金価格は上昇するだろう。
逆に、景気回復が腰折れして、一過性の"あや戻し"に終わるとどうか。デフレ懸念により、金価格は上昇となろう。
つまり、米国経済が最近のはやり言葉で言えば、順調にソフトランディングすれば、金価格が下落。デフレ、インフレなどのハードランディングだと上昇ということになる。
ここで、読者の多くが疑問に思われるのは、インフレヘッジとしての金が上がるのは分かるが、デフレヘッジとしても金は有効なのか ということであろう。少なくとも、これまでの通説では、デフレの時代には金の出番は無く、売りであった。
ここでポイントとなるのは、デフレの症状である。まず、価格が下がり始める程度の軽症のデフレ、平たく言えば、(今は無き)牛丼が280円に値下がりする分には、普通に銀行預金して仮に利息がゼロ金利であっても、問題はない。同じおカネで今までより多く牛丼が食べられるから、なにもおカネを金に換えて持つ必要も感じられない。だから、金価格も下がる確率が高い。
しかし、デフレの症状が更に進行して、デフレスパイラル、即ち、280円に値下げしたことで、牛丼チェーンの収益が落ち、リストラを余儀なくされ、社員の給料カット、果ては、会社の経営不安などに発展すると、これは、問題である。経営不安=信用不安=不良債権化に発展し、資産をおカネのかたち、或いは、預金、株、債券のカタチで保有することに、信用リスクというものが生じる。そうなると、信用の裏づけの要らない資産が必要となる。希少性による独自の価値を持つ金の出番が来るのだ。
現代のデフレはこのようにタチが悪い悪性の症状を伴う。だから、米国経済がデフレモードに逆戻りする可能性を示唆するような経済統計が発表されると、同日のNY金価格が上がるのだ。
逆に、順調な経済回復を示す指標が出ると、金は売られる傾向にある。
更に、景気回復が順調を通り越し、過熱の兆候さえ現れると、金融当局は、金利をあげるぞー、と市場に牽制球を投げる。更に金は下がる。但し、誰が見ても過熱の兆候が出ているのに、金融当局が何もしない、或いは言わないと、ほっておくとインフレになると市場は懸念し、金は一転買われる。
一月末からの金価格の動きを見ていると、正に上に述べたことが現実のものとなっている。
まず、一月末に、グリーンスパンさんが報告書のなかで、米景気も回復しているようだから、そろそろ金利上げてもいいかも、というニュアンスを色濃く出すや、金融当局がすばやくインフレ回避に動いたと理解され、ソフトランディング説が支配的になり、金価格は395ドルまで下がった。
ところが、下がったところで、実は米国経済が過熱どころか、いずれデフレモードにさえ戻りかねないことを連想させる経済統計が発表された。新規就業者数というやつで、要は、米景気が回復しているといっても、リストラ効果による企業業績の回復主導で、肝心の雇用はそれほど増えていないことが露呈されたのだ。雇用なき回復という現象である。デフレならやっぱり金だと、金市場は一転買いモードへ。
415ドルまで反転。
その間、ドル円相場は、当局の執拗な介入により、105-106円台に張り付いたまま殆ど動かず。従って、円建て金価格は海外金価格にほぼ平行して上下している。
日々の海外金価格は外為市場を睨み、ドル安ユーロ高になると金が買われている。しかし、長期投資として金を考える個人投資家にとって一番大事な市場の長期トレンドはつまるところ米国経済次第なのだ。
ソフトランディングなら、株も預金も安全、順調だろうから、金は要らない。
ハードランディングなら、やっぱり金が必要である。
どっちに転ぶか、神様グリーンスパンさまでも分からない。お上も最早助けてはくれない。どっちに転んでもいいような準備、自衛策を講じなければならない厳しい時代なのだ。