豊島逸夫の手帖

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Qちゃん相場

2004年3月30日

先週一週間で国際金価格は410ドルから420ドルへ10ドルの上昇を見せた。年初に430ドルを瞬間的に突破したときに迫る勢いである。 NY先物市場残高も急増。2週間前の194トンから先週末は一挙に318トンまで膨張した。1週間で100トン以上の増加なので、かなりのマグニチュードの買いが集中したと言える。 しかし、420ドルに至るまでの過程にかなりの買いのエネルギーを使い果たしているのが気になる。マラソンで言えば、30キロ過ぎのだらだら上り坂でQちゃん(高橋尚子)失速状態にならねばよいがと気がかりなのだ。

市場環境も年初と全く異なっている。 なんといってもユーロが弱い。 対ドルで年初は1.30に迫る強い地合いだったのに、今回は1.20をも割り込みそうな売り一色の様相である。対ユーロではドル反騰。ユーロ買いフィーバーは一巡したのに、金価格は上昇中。 市場のテーマが変わったということだ。今は、地政学相場。その背景は前回までに詳しく述べたとおりだ。 今や、株式相場に冷や水をかけかねない地政学的リスクをヘッジするために金が買われている。株も買うが、テロや中東情勢の悪化により株価急落するようなときのために、金投資でリスク分散を計っている。

なお、対円ではドルは一転軟調である。当局介入死守ラインの105円台にまで円高が再び進行してきた。軟調なユーロ相場とは全く対照的である。 目先の金相場は、地政学的要因という日々大きく状況が変化してゆく材料をテコにNY先物市場主導の上げとなっているので、ボラティリティー(価格変動)が大きい状態が続くだろう。先週、NY先物市場で急激に増えた100トン以上の買いは、事と次第によっては、いつでも手仕舞い、売られる可能性を秘めている。取り組み残高の200トン程度までは根雪のように蓄積して容易に消えることのないじっくり買いポジションだが、それ以上の上澄み部分は浮動票のようなもので刻々動きが変わる。

なお、今週末には毎月お騒がせの米国雇用統計が控えている。ここ2ヶ月ほど、事前予想と大幅に異なる発表数字に金のみならず金融市場全体が振り回されている。今回も、もし新規雇用がやはり伸び悩みとなれば、ドル金利上げ観測は後退し、金には買いの材料になろう。逆に、雇用大幅増とでもなれば、金利上昇が連想され、金には一転売りの材料となる。(なお、インフレ懸念浮上のシナリオもあり得る。)雇用データに関する事前の予測は色々聞かれるが、最近当たったためしがなく、無視することにする。(尤も、反面教師で、予測の逆を読む手はあるけどね。)

地政学的要因の新たな展開としては、パキスタン(アルカイダと核の問題)、台湾が加わる。米メジャーリーグ開幕地東京のテロ計画などがまことしやかに語られるあたりは、ゴルゴ13の読みすぎかという気がしないでもないが、まぁ、それだけ、市場がテロに神経質のなっているということだろう。今日も地下鉄丸の内線内のアナウンスでいきなり"スペイン列車テロの結果、警備を強化し、皆様にはご迷惑を 云々"とやられたが、地下走行中の車内で、スペイン列車テロを引き合いに出されると気持ちがひんやりする。金市場の材料を肌で感じた一瞬だった。 とまぁ、あれこれ語ってきたが、短期乱高下、基調は引き続きアップトレンド維持である。Qちゃんはオリンピックに出なくてもいずれ世界記録を(高値)更新することを信じたい。

2004年