豊島逸夫の手帖

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マネーの動きに変化

2004年5月12日

ここ一ヶ月ほどで国際経済情勢は大きく変わり、マネーの動きにも変化が出てきた。 まず、米国を中心に景気回復が本格的になった。これまで、リストラ景気と言われ"雇用なき景気回復"と言われていたのが、いよいよ新規雇用も増えてきたことが統計資料で確認された。デフレを脱却して、どちらかというとインフレ懸念が注目されるに至っている。そうなると、金融は引き締められ、金利は上がってくるので、金利を生まない金は売られる局面が増えてきた。 次に、これまでドル離れと言われ、ドルからユーロ、円、そして金にシフトしていた投資マネーが、ドルへの回帰を始めた。双子の赤字と言われる史上最悪の借金漬けに陥り、しかもテロやイラクと戦う米国に世界中の投資家が不安を抱いていたのが、徐々に米国経済も捨てたものでもないと見直すようになってきたのだ。 更に、中国経済の成長のスピードが年間10%近いという、誰が見ても過熱気味の様相を呈してきた。そこで、当局も引き締めに動き始めた。そのブレーキのかけ方が急だと、バブルがはじける可能性もある。そこで、中国特需を囃して買われてきた商品相場が一斉に売られた。

その結果、金価格も大幅に下がってきた。海外市場では380ドル台を割り込み、国内小売価格も1500円を割った。 けれども、これで金長期上昇トレンドが終わったわけではない。金市場を取り巻く経済環境を見ると、まだまだ、金が買われる状況にあるのだ。 まず、原油価格が40ドルに近い、湾岸戦争以来の高値圏にあること。地政学的要因がここでは効いている。特に、アルカイダの矛先がサウジアラビアやナイジェリアなどの石油生産基地に向けられていることが不気味である。これにより、オイルショック時のようなインフレが起きるとは思えないが、景気回復に水を差すことは考えられる。

次に、インフレ懸念が顕在化する可能性がある。特に、米国FRBのグリーンスパン議長は、1994年に、インフレの芽を摘むための金利引上げを急ぐあまり、破綻の連鎖を生んでしまった苦い経験があるので、今回は金利引上げに慎重である。様子を見ているうちに、景気が過熱化してしまうと、インフレを招いてしまう。投資家もそろそろインフレへの備えを気にし始めた。 また、中国の経済減速の可能性も、これで成長が止まるわけではない。これまで年間10%という言わば高速道路を突っ走ってきたのが、これから一般道路に移るという段階である。かなりのスピードダウンと感じられようが、これで持続可能なスピードに移行するのだ。

また、米国経済のアキレス腱といわれる膨大な双子の赤字は相変わらず手付かずのままだ。今回の景気回復も元はと言えば未曾有の減税という大盤振る舞いにより可能となったもの。そのツケとしての史上最悪の財政赤字に経常赤字も加わり、米国経済は借金漬けである。ドル安=金買いの流れがいずれ復活する可能性大と言わねばならぬ。 この最後の要因が特に構造的問題なので重要である。

今の市場は金も為替も株も金利上昇にばかり目を奪われている感があるが、大きなトレンドを見失わないようにしたいものだ。 なお、過去の経験則では"米国の利上げまではドル高、実施後はドル安"といわれる。一旦金利が上がってしまえば、材料としては折り込み済みになるということだ。

2004年