豊島逸夫の手帖

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中国のドル資産減らし、金準備増強の可能性

2004年11月29日

先週後半から外為市場では、各国の公的外貨準備としてのドルを売却して減らす動きがしきりに伝えられている。そこで金市場の注目点は、その一部が金へのシフトになって現れるか、ということである。

実際、中国はここ5年の間に公的金準備を400トンから600トンに増やしていることが確認されている。但し、直近では中国の公的金購入の動きは確認されていない。

中国のドル離れについては、先週、中国人民銀行の金融政策顧問会議のメンバーの大学教授が、中国の米債購入が1800億ドル程度まで減少したと発言したと報道されて、市場が色めきたった。なにせ中国の対外準備資産は5150億ドルに達し、日本に次ぐ世界第二位の規模であるから、その影響は大きい。 しかし、この発言はその後撤回されている。"大学の学生への説明として某投資銀行のデータを引用したもの"ということであった。

しかし、市場は何とかドル売りの口実を探そうと必死のように見える。

公的レベルでのドル離れは中国に限らず、今や、"劇場シンドローム"の様相を帯びてきた。つまり、緊急事態に劇場内の観客が我先にと出口に殺到しているようなのだ。ドルが更に減価する前に、ウチだけは売って減らしておきたい と行動するパターンである。

なかでも、ロシアは中央銀行首脳が1130億ドルの対外準備資産のなかのユーロ比率(現状25~30%程度)を高めると発言。更に、インドネシアは350億ドルの対外準備を保有しているが、そのなかのドル比率を低めることをほのめかしている。そして、欧米市場では外貨準備ダントツ一位の日本も、いずれドル離れの動きに同調するのでは、と囁かれている。

短期的にはそれは円高容認を意味するから、現実味は乏しいが、長期的には目減りするドル資産の偏重が持続可能とは思われないということだ。

以上のドル売り劇場シンドロームのなかで、中国、ロシアは特に今後金準備増強に動く可能性が充分あると筆者は見ている。その理由は簡単。両国とも経済安全保障の観点からドル、ユーロ、円のいずれの傘下にはいることも潔しとしないからである。そこで、無国籍通貨というかナショナリズムの匂いのしない通貨として金を選択する可能性があるのだ。

以前、ユーロの理論的提唱者でノーベル経済賞受賞のコロンビア大学マンデル教授が、地域経済圏の話のなかで同様の可能性に言及し、その当時としては、やや非現実的と見られた金価格600ドル説を打ち出したことがある。数年後の現在、600ドルという数字を"非現実的"と捨て置くわけにもゆかなくなって来たようだ。

2004年