錬金術の起源には諸説あります。紀元前の中国を起源とする説、古代エジプトに始まるという説、古代ギリシャ起源説、古代アラビア起源説等さまざまです。いずれにしても古代から中世にかけてアジアおよびヨーロッパの広域にまたがって見られ、それぞれの地域の宗教や哲学と深く結びついて固有の発展を遂げたようです。そのためか、「卑金属から貴金属をつくり出す技術」の追求が強調された地域もあれば、「不老不死の仙薬を調合する技術」の追求が強調された地域もあるようです。
一般に錬金術という言葉は、あまり芳しからぬイメージを持たれているようです。たしかに呪術的あるいは山師的な性格を持ち合わせていたようですが、一方で「物質の化学変化を対象とする一種の学問」としての性格も色濃く持っていました。錬金術の研究や実験を通して習得された技術や知識の蓄積が基礎となり、金属製錬技術の発展、医薬の開発、さらには近代化学の成立を促したと言われるゆえんです。
このように大きな役割を果たした錬金術も、とうの昔に歴史の表舞台からは消え去りました。しかしその精神は、現代の冶金学やバイオテクノロジーなど、さまざまな分野で受け継がれ生き続けています。蛇足になりますが、ファンタジーの世界においては、その健在ぶりを大いに発揮しています。「ハリー・ポッターと賢者の石」に登場する「賢者の石」とは、まさに中世ヨーロッパの錬金術師たちが最終的に追い求めた秘密の物質のこと。「賢者の石」は、あらゆる卑金属を貴金属に変える触媒であり、あらゆる病気を治す力を持つ物質であると信じられていたものなのです。