2005年1月17日
今回は為替の国内金価格への影響とその見方を個人投資家向けにまとめてみた。まず、海外金価格の変動要因がドル相場の動向であれば、為替により国内金価格かなり相殺されるが、非ドル要因であれば、それほど相殺されない。非ドル要因とは、地政学的リスク、中央銀行の金売却問題、鉱山会社のヘッジ、中国の金自由化などである。
'85年のプラザ合意以降、'90年代前半にかけては、為替市場での円独歩高が長期にわたって続いていたため、円建て金価格も長期にわたって一本調子で下げ続けた。けれども、ここ5年ほどは、海外金価格と国内金価格はほぼパラレル(平行)に推移している。短期的に乖離しても早晩収斂するプロセスを繰り返している。これは、一方的な円独歩高が続かなくなったからである。その背景には、ユーロの登場という要素が大きい。それまでの国際基軸通貨=ドルという一軸の構図から、軸が二つになったからだ。
昨年後半より再び円高が加速している。これは、米国が空前の"双子の赤字"を累積したために、世界的にドル離れ減少が生じたためである。しかし、為替レートというものは、あくまで相対的な評価で決まるものであるから、日本経済が米国経済に輪をかけて悪化するという見通しが支配的になれば、円の方がworse(より悪い)という相対的な評価によって売られ、円安になる。従って、昨今100円割れ説なども飛び交っているが、仮にそうなっても、その水準が長期的に持続されるか否かは別問題である。日本経済のパフォーマンス次第で、相対的評価はいかようにも変わる。このような状況下では、円高で金価格が下がる局面は、長期的に見れば、個人投資家にとっては買いといえよう。
そもそも、円高、円安という表現もそれを使う人の立場により想定する水準が大きく異なる。現状では、102円台になると円高進行と報道され、105円に戻ると円安気味といわれる。これは、短期的売買益を求めるディーラー的発想に基づく見方であり、長期投資の視点とは異なる。120円台のドル預金を抱えている個人投資家の視点で見れば、105円でも相当な円高といえよう。長期金投資の観点からは、110円以下は円高水準なので買い優先、125円を超えれば円安水準だから売り優先、というおおまかな方針でよいと思う。
海外金市場がドル高、ドル安を囃すときに、彼らがウォッチしているレートは円ドルではない。ユーロドルである。ベンチマークはあくまでユーロであり、円はローカルカレンシーという位置づけからなかなか脱却できない。なお、近年のユーロ高、ドル安は、ユーロの評価が高くて買われているのではない。ドルの評価が下がってドルが売られている結果としてのユーロ高なのだ。ここでも相対的評価が決め手となっている。なお、人民元や円などのアジア通貨が固定相場や介入などで買われにくいことで、結果的にドル売りのエネルギーがユーロ買いに集中している面も無視できない。
直近のユーロドルは1ユーロ=1.36ドル台という過去最高値を昨年末につけた後、年初は1.30台まで低落して、金価格を420ドルまで押し下げる要因となった。とはいえ、これまでの短いユーロの歴史のなかで、1.30台という水準は過去最高レベルなのだ。国内では、ユーロの相場が報道される場合は、対円のレートとなる。これは、クロスレートと呼ばれ、ユーロドル、円ドルの市場に比べ、取引量は少ない。ドルがユーロに対してはドル安なのに、円に対してはドル高となる(あるいはその逆)場合もあるので要注意。そのような場合は円建て金価格が相対的に変動する確率が高いからだ。
最後に筆者から一言。以上書いてきたことは、あくまで長期投資を考える個人投資家のために簡素化してまとめたものである。アナリスト的にいうと、色々なケースが考えられ、こういうシナリオもあれば、ああいうシナリオもあるということになるのだが、それには敢えて目をつぶってばっさり一般化した。ディーラーと個人投資家は短期、長期という観点は180度異なるが、どちらも売りか買いかエイヤーの呼吸で決めねばならない点では同じなのだ。その際の指針の一つとお考え頂きたい。