2005年8月4日
人民元切り上げに対する金市場の反応はそれほど強く感じられない。影響が無いわけではないのだが、その方向性(上げ、下げ)がマチマチなため、総合的インパクトを計りかねているようだ。
需要セクターごとに吟味してみよう。
先ず、投資需要だが、人民元切り上げは円高と同様に国内金価格を引き下げる効果がある。しかも、切り上げ幅が2%に留まったので、市場内では再切り上げが見込まれている。このような状況下では、投資家は国内金価格の更なる下落を見込み、買いを控えるであろう。しかし、長期的に見れば、人民元の変動幅が拡大することは、中国人民銀行の介入が徐々に弱まり、人民元の交換性が自由化されてゆくことを意味する。その結果、国内金価格もボラティリティー(変動性)が強まり、取引機会も増え、市場の活性化要因となる。プロのディーラーの立場から見れば、アービトラージ(裁定取引)のチャンスも増えるだろう。中国国内四大銀行に金業務が解禁された直後でもあり、金自由化の追い風になりそうだ。
次に、宝飾需要だが、ゴールドジュエリーが割安になることによる需要喚起効果が予想される。特に、中国の宝飾需要は低マージン商品が中心で価格弾力性が高い。価格に敏感なのだ。2%程度の変動でも、ゴールドジュエリーをグラム単位で購入するユーザーにとっては、かなりのインパクトがある。
最後に、公的セクターにも注目したい。今回の切り上げの目玉は、通貨バスケットの導入である。人民元レート設定のベンチマークがドル オンリーから多通貨バスケットに移行することは、ドル離れ現象を加速させよう。そこで市場の関心は、来年は1兆ドルを越えるとも言われる中国の対外準備資産の内容、つまり、通貨別内訳である。一説では、これまで6割以上を占めたドルの比率が4割程度に低まり、逆に、ユーロが2割強から4割近くまで高まるのではないかとも言われている。そして、ドル、ユーロに次ぐ通貨が円ではなく金となる可能性がある。既に、中国は21世紀に入り、公的金保有を400トンから600トンに増やしており、このペースが続けば、1000トン程度という数字も現実味があろう。金は国籍の無い通貨、ナショナリズムの匂いのしない通貨であり、経済安全保障の観点からは、中国にとって好都合なのだ。(米国、日本などの"仮想敵国"通貨で運用すれば、資産封鎖のリスクがある。)
中国の公的金保有量は定期的にIMFに報告され発表されているので,今後の動きに注目したい。