豊島逸夫の手帖

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490ドル突破

2005年11月22日

投資家による利益確定売りの波をこなしながら、あっさり490ドルも通過。相場がヒートアップしているときは、一歩下がって、冷静に今の金買いの流れをおさらいしてみよう。

(需要サイドの要因)

―多くの主要国が自国製品の国際競争力維持のため自国通貨安を望む現象(他国を踏み台に自国だけは輸出を伸ばしたいと言う意味で近隣窮乏化政策といわれる)が加速するなかで、通貨不安が生じ、代替通貨としての金の需要が増加。マクロ経済的に見ても、ドル=双子の赤字、ユーロ=失業、憲法問題、円=累積財政赤字、人民元=中国政治経済問題などそれぞれに構造問題を抱え込んでいるのが現状だ。不安の対象はドル以外の通貨にも波及しているので、ドル高、ドル安の連関性が薄れた。従って、円建て金価格も海外金価格に平行して上昇。

―リスクマネジメントのツールとして金が浮上

地政学的リスク、インフレリスク、信用リスク、そして通貨リスクに対するヘッジとして金が特に年金など機関投資家の分散投資(代替投資)の一選択肢として認識され始めた。なお、信用リスクの代表的なものは米住宅バブル崩壊。一般的に、信用破綻が起きると実物資産への回帰現象が生じる。

―アジア、中東など金選好度の強い地域へ所得が移転したことによる金宝飾品需要の増加。原油高騰により中東へ、貿易不均衡によりアジアへの世界的な所得再配分効果による。

(供給サイド)

―価格高騰にもかかわらず生産は引き続き頭打ち傾向が鮮明。最大の生産国南アに至っては、今年年間生産量が300トン割れの危機(80年ぶりの減少。)世界の金生産量も昨年4%減、今年はフラット。金埋蔵量は膨大な開発コストのかかる過酷な自然環境のなかにしか残っていない。

―中央銀行の売却は年間500トンペースで"ワシントン協定の想定内"の進行を続けている一方で、最近、中銀による新規金購入が出始めた。アルゼンチン(実行中)、ロシア、南ア(計画中)などだ。

最後に今後の価格下げリスクもまとめておく。

―バーナンキ(次期FRB議長)が物価上昇率を越えるペースで利上げを進め、実質金利が大幅にプラスへ転じるケース。

―中国経済のスローダウン、或いはオーバーキル(締めすぎ)などだが、現実的シナリオかといえば、実現可能性は低いだろう。

結局、米国人が過剰消費、過小貯蓄を反省し、中国が過剰貯蓄、過小消費を反省し、それぞれが国民のライフスタイルを変化、向上させないと双子の赤字のような根の深い構造要因は解決しないのだ。

ここまで来ると、とにかく500ドルの声を聞かないと収まらないだろう。そして、500ドルになれば、オーバーシュートが起きる。しかし、500ドルで落ち着くには未だ時間がかかる。乱高下を経て、やがて新たな需給均衡点として500ドルに収斂しよう。

2005年